第32話 あざといウサギ
前回のあらすじ
・西の砂浜で鷹狩り( )
・栗鼠「チェスト――!!」ウサギ「阻止!」
・ルイーゼ「ヤムチャしやがって・・・・」
『しかし、その家畜、思ったよりも役に立つな』
バロンはウサギを見遣り、感心したように呟く。
先程の栗鼠、おそらく攻撃対象は私だったところをウサギが間に入り、代わりに攻撃を受けてくれたと思われる。
バロンはそんなウサギの行動を褒めているようだ。
「助けてくれて、ありがとう」
ウサギに庇われなかったら、私が攻撃を受けていた。
攻撃を受けたことがないため、自分のHPの減り方が把握できていない。
栗鼠の攻撃が私に与えるダメージ量も分からないが、ウサギの様子を見るに大ダメージだった可能性が高い。
「プゥ」
お礼を言われたウサギは耳を高く持ち上げ、高く一声鳴く。心なしかふさふさのお胸が張られて見える。猫派だけど、猫派だけど、可愛い。
『・・・・・・』
背中にバロンの視線が当たる。
「バロンも、いつもありがとう」
バロンは気のなさそうに尻尾の先を揺らし、目を瞑る。
大きくゆっくりと振られ続ける尻尾がその気持ちを雄弁に語っている。素直じゃないところも可愛い。好き。
バロンの狩猟本能も収まったことだし、西のフィールドを進もう。
バロンを待っている間に海も心行くまで堪能できたで満足である。
ちなみに浅利は見つからなかった。残念。
岸辺には等間隔に水車小屋が建てられており、春の風を受けてゆっくりと羽を回している。
時々、近くを
上空を吹き荒れる風はあの鷲が起こしていたのかもしれない。
周囲のモンスターはバロンを見つけて逃げていくか、襲ってきては一瞬で返り討ちにあって消えていく。なんとも平和な旅の道中である。
ウサギは頭上で耳を
しばらく歩くと、青や緑の寒色系統の外壁で纏められた家々の並ぶ村が見えてきた。
寒色の外壁に白い縁取り、濃い灰色の屋根に煙突が生えた可愛らしい印象の村だ。
ここがクロウさんの言っていた途中にある村だろう。東西南北すべてに村があるようで良かった。
「お腹も空いてきたし、あそこで休憩させてもらおう」
「にゃー」
簡易な柵で囲まれた村へと立ち入る。
春の砂浜と同じく長閑な雰囲気で安心する。外を歩く人も和やかに挨拶してくれる。
「こんにちは」
「こんにちは。…少し休憩場所を貸して下さい」
「場所だけでいいのかい?」
「はい」
ここを使うといいよ、と少しご年配のお姉さまが丸テーブルと木椅子へ案内してくれた。お礼を言って使わせてもらう。
携帯食はパンに似た見た目の焼き菓子で、中に紅茶の茶葉らしきものが練りこんである。
口に入れればバターと小麦粉が絶妙な調和を生み出し、紅茶の風味が鼻腔を通り抜けていく一品。
お供はミルクティー。紅茶の苦みが良くきいていて美味しい。
水筒から出したミルクティーを露店で買った醸ジュースが入っていたコップで飲みながらステータスを確認する。
バロンのバードウォッチング(というよりハンティング)の結果、またレベルが数個上がっている。
スキルもいくつか取れそうなことだし、休憩中に取ってしまおう。
画面とにらみ合いを始めた私の膝にウサギが乗ってくる。
「どうしたの?」
視線を向ければウサギの前に画面が見える。
ウサギはその画面に顎を乗せ上目遣いにこちらを見上げている。え、かわっ。
「…もしかして、ウサギのステータス画面?見てもいいの?」
一瞬ウサギに浮気しかけたけれど、バロンの視線が怖かったので私は正気です。
ウサギは頭で画面を押し上げ、私の前に差し出してくれる。
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