第2章 西の大国

第31話 バードウォッチング  *バロンによる鳥(猛禽類)いじめ


西の砂浜。


陽の光を反射して白く輝く砂と青く透き通った海の色。砂浜に寄せては返す波の音が静かに心へ染み渡る。



こういう時に「ひねもすのたりのたりかな」というのだろうか。有名な俳句を思い出しながら考える。


西側は幸い気温もそう高くなく、長毛種にも過ごしやすい気候だ。


周囲にモンスターさえいなければ、ここで昼寝もできそうな穏やかな風景である。



そう、モンスターさえいなければ。



「――ぅなお!うにゃん!にゃん!にゃん!」


逃避していた現実へそっと視線を向ける。


大興奮のバロンさんである。空に向かって何度も飛び跳ね、飛ぶ鳥を捕まえようと挑戦を繰り返している。



その上空を逃げ惑うのはわしと蛇に似た生き物。


蛇の方には蝙蝠こうもりのような翼が生えており、空中を器用に飛び回りバロンを回避している。


対する鷲は旋回しながら上空へあがろうと試みているが、大きな体が災いし、バロンの爪が掠ってしまう個体が多い。


バロンの爪が掠る、すなわち死である。



これだけだと蛇の方がうまく逃げられているように感じるが、蛇も蛇で数を減らしている。


小回りのきく蛇だが突然の強風には弱いらしく、突風にあおられてバランスを崩したところをバロンの餌食になっている。



しかし、地上は心地よい微風そよかぜしか吹かないのに上空ではよく疾風が吹くのが不思議である。


地上と上空では空気の流れが異なるのだろうか。



バロンは鳥と戯れて楽しそうではあるけれど、逃げる鳥たちにとっては生死をかけた必死の戦いである。


鷲があんなに必死で翼を動かす様を初めてみた。


でも、鷲って翼の筋肉で飛んでいるわけではなく、風の力で飛んでいるんじゃなかったけ。


翼を動かすことに意味はあるのだろうか。疑問が募る。



…というか、いつまでやるのだろうか、これ。


西の砂浜で海を眺めて彼此、数時間は経っている。



そろそろ飽きてきたなぁ、バロンはよく体力持つなぁと雲の上に意識を飛ばす私の視界が翻然と、白く染まった。


すわ幽体離脱、雲の上に着いてしまったか!?焦る心とは裏腹に視界はすぐに開け、また砂浜を捉える。砂浜に横倒しになったウサギと共に。



「う、ウサギっ――」


ヤムチャしやがって!じゃない、一体なにが。



『……死んだか?』


「死んでない!生きてるよ!?」



急いでウサギに駆け寄り応急手当を使用する私にバロンが問いかける。モンスターは死んだら光の粒子になって消える。


消えていないということは生きているということのはず。しかし、テイムモンスターだと仕様が異なる可能性も否定できない。



慌てて確認したウサギのHPバーはちゃんと残っている。


まずは、応急手当によってHPの回復に努める。続けて、医術を使いさらなる回復をはかる。



応急手当は回復量は少ないが発動までの時間が短く緊急時に役立つスキルである。


対する医術は応急手当よりも回復量が多いものの発動までの時間が長い。


クールタイム、同じスキルを次に発動できるまでの時間も長いため、使いどころを見極める必要がある。



ウサギの回復に努めながらも視線は砂浜を走り、姿の見えない敵の姿を探している。バロンも近くで警戒態勢を続けている。


「あれは・・・栗鼠りす・・・・・?」


視界の端で動くものを捉え、注視すれば、砂と同化した小さな小さな栗鼠の姿が。


やけに前歯が大きく、出っ歯な栗鼠である。あれがウサギを攻撃した敵の正体だろうか。



ダンデタレヴェアクウィLv.3



なんて?識別して名前が分かったけれど分からない。


ダンデ?ダンデライオン?栗鼠じゃなくて獅子だった?名前が難しすぎて混乱する。何語だ、これは。



栗鼠はウサギを指さしわらっている。性格悪そう。



『・・・・・・』


バロンが無言で近づいて前足で栗鼠を潰す。


逃げようとする栗鼠の行動を予測した素早く無駄のない動きだった。


で、あの栗鼠は何だったの?


私の胸に疑問と混乱だけを残して栗鼠はいなくなった。



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