第23話 難しい問題
白銀の杖
金属製の白い杖。回復系のスキルに少し補正あり。
御空色の杖
透明感のある水色の杖。回復系のスキルに少し補正あり。
力の長杖
赤い魔石の付いた黒い杖。水魔法に少し補正あり。
識別さんではほとんど何も分からなかった。収穫は黒い杖に付いているのが魔石だと分かったくらいだ。
しかし、黒い杖のみ『力の長杖』となっており、名前が異なる。どことなく特別感もあるし、黒い杖にしようか。
手に持ってみれば細い柄が握りやすく、二又に分かれた石突で安定感もある。これにしよう。
さて問題は、この力の長杖が黒と灰色、どちらのローブにも合いそうなことだ。
黒か灰か、それが問題だ。…悲劇の主人公を真似て言ってみたが決められないものは決められない。
なんて難しい問題なのだろう。もういっそ、棒でも倒して、倒れた方を買うことにしようかな。
それともバロンに聞いてみようか、
「ねえねえ、バロン。どっちがいいと思う?」
腕の中から肩に移動したバロンに聞いてみるが興味もなさそう。尻尾の先を数度動かし、目を瞑る。
お買い物デートあるある。どっちが似合うと思うと聞いても彼氏がどっちでも良いとか興味なさそうにしてくる。
いや、長い買い物に付き合わせている私が悪いか。ごめんね、早く選べるよう努力するよ。
まぁ、努力したところで、やっぱり迷ってしまうのだけれど。
目の前の机に二つのローブを並べて悩む、そんな私に焦れたのか頭上のウサギが灰色のローブの真横へ飛び降りた。
こちらにすべきと言うように鼻先で灰色のローブをつついている。
「ウサギ的には灰色の方がいいの?」
「プゥ」
高い声で鳴くウサギ。前足を持ち上げて両耳を前後に揺らしている。頷いているつもりかな。ウサギに従って灰色のローブに決める。
これで私も大人の女性らしさを手に入れた!ルイーゼの大人力が10上がった!
いや、と言うのは冗談で、たぶん少しの防御力と水魔法の補正を獲得したはず。
店を出れば街は黄昏色に染まっていた。
元々赤色の多い街並みは、夕日に照らされて橙色と黒の二色で彩られたセピア色の写真のように色づいている。
家々の窓からもれ出た光が真っ黒な運河に反射し、瞬いている。幻想的で旅愁的な光景だ。
そろそろ宿を探さなければ。
広場に向かいながらハウスボートを確認する。
ハウスボートの入り口には看板が設置されており、その看板によって船が宿として使用可能か判断できる。
使用中の船はベッドの絵が描かれており、予約済みの船は椅子、食事処として開放されている船はお肉の印が看板に描いてあるそうだ。
そして、宿泊可能な船には何も描かれていない。
広場でクロウさんに教えてもらった各マークの意味を思い出しながら看板を確認していく。
使用中、使用中、予約済み、使用中、あ、ここはレストランだ。
確認すれども、使用中か予約中の船ばかりで、泊まれそうな宿が見あたらない。
ハウスボート以外の宿も確認してみたが、全滅だった。
「どうしよう・・・・宿がない・・・」
広場に到着し、四方八方に近くの運河を巡ったが、空いているボートがない。
そろそろログアウトしようと思ったのに部屋がとれない。個室以外のログアウトはなんとなく不安だ。
そう思うのは自分だけではなかったのだろう。おそらく、使用中の宿では先にログインしてログアウトしていった探索者たちが眠っている。
このまま、夜の冒険に繰り出してしまおうか。時間はまだある。
『イディオートの夢』は一日4時間のみプレイできる。
その4時間を6倍速に引き伸ばしゲーム内の体感で24時間がゲームに入れる時間だ。
思考加速というか、脳から送られる情報を直接装置が受け取ることで伝達にかかる時間を少なくしているとか、思考の一部分を装置が肩代わりする機能が付いているとか、説明を読んでも難しくて理解できなかった。
けれど安全性は国からの保証も得ているとのこと。
『イディオートの夢』に入ってまだ24時間は経っていない。
今すぐにログアウトしなければいけないわけではないのだ。
しかし、懸念事項が一つある。
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