第20話 初心者装備+1


冒険者ギルドの隣、武器の看板が掛けられた塔へ入る。


中には吹き抜けの螺旋階段があり、各階その左右の壁にアーチ状の扉が付いている。


右へ行けば冒険者ギルドの受付が、左に行けば武器防具などのお店があるようだ。



「…へい、っらっしゃい」



扉を潜ってすぐのところに木製のカウンターが設置されている。そこに座った男性に声をかけられた。



「こ、こんにちは・・・・・」



店内は武器や防具、ポーションらしき瓶や鞄、手持ちの洋灯(ランプ)に焚き木セットなど様々な雑貨が乱雑に展示されており、緊張する雰囲気を醸し出している。


こう、気難しい店主が営む骨董品店みたいな。



どうしよう、見ているだけですとか言ったら怒られるかな。


「じゅ、従魔用の装備とかはありますか…?」


「あ?ここにねぇもんは上の階だ。武器防具は2階、その他は3階だ」


「あ、ありがとうございます…」


こ、怖い。とりあえず2階に行こう。



2階は1階とは違い明るい雰囲気のお店だ。服や小物を売っている近所の百貨店の2階に似ている。日曜日に家族連れで買い物しそう。



「お嬢ちゃん、一人で来たのかい?」



詰襟の白いシャツに黒のベスト、同じく黒のスラックスを身に着けた男性。首元まで隙なく締められたボタンにプロ意識を感じる。



「えっと、はい・・・あの」


「ご両親は一緒じゃないのかな?」


眉をひそめて尋ねられる。



ご両親。もしかして、子供と間違われている!?


なぜ。親の付き添いが必要な年齢になんか見えないはず。私、ちゃんと大人だよ!



「あの、私、探索者です…」


「え、ああ、そう……」


あからさまに落胆した様子。



「ここには探索者が満足するような品なんて置いてませんよ」


「え?あの・・・・」


私の不思議そうな顔を見て一つため息。



「…ここは初めての魔物退治を迎える子供たちが装備を整える店なんです」


「子供たちが?」


「ええ。ある一定の年齢になった街の子供たちは小遣い稼ぎの一環として魔物退治をします。


その時に子供たちが少しでも安全に魔物と闘えるように武器や防具を親と買いに来るんです」



つまり、私はその魔物退治デビューの子供と間違えられたわけだ。


…何歳くらいなんだろう。



「子供たちが闘うのなんて街の周辺の弱い魔物くらいですし、武器防具類の性能もたいして必要とされてません」


「強い魔物と闘おうとする人はいないんですか?」


「いません。…いえ、孤児院から巣立つ冒険者なら……」


「孤児院の?」


「ええ。子供たちの中でも、孤児院の子供たちは積極的に魔物退治に参加します。


そうした子供たちの中で里親の見つからなかった子は街から巣立ち、他の国へ向かいます」


ええっ、それって・・・・・



「まぁ、そうした孤児院の子たちなら強い魔物とも闘うでしょうね」


「その子たちは装備を整えないまま他の国へ?」


「いいえ、本人たちが集めた素材で特注の装備を作りますよ」



ちらりとこちらを確認して一言。



「この街の職人は子供たちの装備で手一杯なので、探索者の装備は作れませんよ」


「あ、はい」



子供たちの装備を作る手を止めてまで自分の分を作ってもらいたいとは思えない。


他国に行かざる得ない孤児院の子供たちを思えば特に。



「じゃあ、従魔用の装備も置いてないですよね…」


「猫型や犬型の従魔用の首輪ならありますよ」



そう言って、猫用の首輪を見せてくれる店員さん。


首輪が出てきた途端にバロンの尻尾が近くの机を叩いた。そのまま何度も尻尾がびたんびたんと叩きつけられる。


着けない、着けないから、怒らないで。



「ウサギ用とかは・・・・?」


正直、バロンは今のままで十分だと思うので、ウサギ用の装備が欲しい。



「人間用ですが、イヤーカフスとか・・・・」


「耳はちょっと・・・・」


分かってる。分かってます。兎の耳は繊細で慎重に扱わなくてはならない。カフスなんて以ての外。分かっているので警戒しないでください。



「え~と、人間用のローブと杖はありますか?」


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