第17話 困惑の認識
掲示板まとめ
・他プレイヤーはチュートリアルでギルドの登録から初依頼までを終えていた。
・他にもチュートリアルで負けイベントに遭遇したプレイヤーがいる。
・みんなのトラウマ「機械()さん」
・死に戻り時の夢にナビさんが出張サービスしてくれる事がある。
満腹になったところで口直しに醸ジュースとやらを飲む。
青色の器の中で黒い液体が揺れている。
麦の香りが口の中に広がり、口の中に残った甘みを微炭酸がさわやかに洗い流していく。
甘い麦茶のような、麦茶とコーラを混ぜたような、不思議な味。今までに飲んだことがない飲み物だ。
どことなく発酵した風味もあり、これはもしかして大人の飲み物かもしれない。
隣で同じものを飲むバロンを確認する。器用に舌を伸ばして容器の中身を掬い飲んでいる。
最後の方は容器に顔を突っ込まないと飲めなさそうだな。
ちなみにバロンの容器は黄色、ウサギの分は黒色だった。
広場の露店では売っている品物も色彩豊かである。赤に黄色に橙、緑や青、綾なす帽子や置物が店頭を飾っている。
食品を扱うお店でも、その容器や器で広場の彩に華を添えている。
「バロンって、しゃべれるの?」
バロンの黄色い容器を飲みやすいように傾けながら聞く。
ウサギ蹂躙事件で有耶無耶になっていたため、ずっと聞くタイミングを伺っていた。
『・・・・・弱体化が少し緩んでおる』
弱体化とな?あれだけウサギを虐殺していたが、本来の力には全く届いていないらしい。
うん、まぁ、本来は現状探索者がどんなに足掻いても勝てそうにない相手だ。
探索者が苦戦するとはいえ、倒せるようなモンスターを相手に手古摺る様なこともないだろう。
『このような子猫の姿にされて・・・・・』
「え、子猫?!」
『どうした?』
いや、だって、バロンさん。確かに最初の姿と比べたら子供サイズともいえるけれど、猫としてはかなり大きいですよ、あなた。
子猫?子猫なの?子猫って何だっけ?
バロンは何時も凛々しい表情をしていて格好いい印象を与える。しかし、じっと見つめてみれば大きな目に広いおでこ、子猫に見えなくもない。
無理矢理に己を納得させていた私の背後で小さな音がする。
「あ、起きた?」
見ればウサギが起きたようだ。前足を持ち上げ、両耳をピンと立て鼻をひくつかせている。
そのまま、周囲の様子を暫く伺っていたが、バロンを見つけて長椅子の端まで後ずさる。
バロンは興味のない様子で大きな欠伸をして見せた後に椅子から飛び降りて更なる距離を稼ごうとするウサギに目を眇めながら伏せの姿勢で前に出した前足の上に顎を乗せてウサギの観察を始める。バロンさん、やめたげて。
バロンの視線にさらされたウサギはメデューサに睨まれた生贄のように中途半端な姿勢で固まって小刻みに震えている。
かわいそうなので私の身体でバロンの視線を遮りながら、声をかけてみる。
「えっと・・・・パン食べる?」
話題が見つからなかったので、とりあえず食事の話を振ってみた。
大丈夫か聞いてみようかとも思ったけれど、大丈夫じゃないのは見ればわかる。
ウサギを刺激しないようにそっとパンの包みを差し出す。
「お肉とジュースもあるよ」
買ってみたは良いものの兎って草食だよね。モンスターのウサギなら食べられるだろうか。
猫の食べられない物なら少しは知っているが、兎が食べられないものはあまり知らない。
今からでも野菜や果物を売っているお店を探すべきだろうか。それとも草原へ連れて行った方が良いのか。
しかし、草原の草は普通の草ではなく
微毒だけれども食べ過ぎるとお腹を壊すと聞いたことがある。
ウサギは草原で何を食べて生きてきたのだろう。ゲームだから関係ないのかな。
とりあえず今日は現実の兎の飼育方法をログアウト後に調べなければ。知らずに間違った対応をしてしまったら大変だし。
匂いを嗅ぐウサギを見守りつつ、ステータスを確認する。HPバーは何とか半分まで持ち直している。
何度か応急手当をかけ続けていた甲斐があった。
ルイーゼ Lv.5
HP 100%
MP 76%
称号: ナビさんのお気に入り
猫の女王様
スキル: テイム 従: クーゲルカニーンヒェン Lv.6 HP 68%
MP 75%
バロン HP 100%
MP 100%
識別
応急手当
水魔法
候補(木魔法、火魔法…etc.)
スキルポイント:12
ウサギのステータス画面を開いたら、ついでに自分のステータスも一緒に見えた。レベルが上がっている。
バロンの弱体化が緩和されたのはこれが要因だろうか。
スキルポイントも手に入っている。このゲーム、スキルはスキルポイントを消費して獲得する。
各スキルで必要ポイントが異なっており、またキャラクリ時を除いて獲得可能スキルはプレイヤーによって違うらしい。
獲得可能スキル一覧を開けば、木魔法、火魔法、風魔法などの魔法スキルの他に、回避、気配察知、医術、鼓舞などのスキルが並んでいる。
先程の戦闘を思い出すと回避や気配察知はほしいかもしれない。バロンが遊んでいる間に私が攻撃を受ける可能性がある。
バロンが戻ってくるまで回避し続ければ、敵はバロンが何とかしてくれるはず。
けれど回復スキルもほしい気がする。応急手当ではウサギの回復もまともにできていないし、回復量が足りない。
「――おや、ルイーゼさん」
悩む私の耳に聞き覚えのある声。
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