第12話 右手が疼く *兎に対する残虐行為に注意
バロンは逃げ惑うウサギたちを追い回して遊んでいる。完全に捕食者と被捕食者の構図。うん、バロンが楽しそうで何よりです。
戦闘らしさを微塵も感じないがバロンが楽しそうなので問題なし。このままバロンが満足するまで見守っていよう。
ああ、バロン可愛い。可愛いなぁ。兎と戯れる猫とか凄く可愛い。可愛いの権化。
バロンを見つめ続けていた私の背後に、ふっと何かの気配を感じる。
振り返れば、群れから飛び出した一羽のウサギがこちらに駆けて来くるのが見える。
走る勢いもそのままにお腹に向かって飛び込んでくる。
――これは、ドロップキックの構え!
からくも初撃は避けられたが、勢いをつけすぎて転んでしまった。
まずい。早く体勢を立て直さないと追撃が来る。
慌てる私の視界に漆黒が躍る。
バロンだ。いつの間にかこちらに駆けつけて、私を襲ったウサギに飛びかかっている。
『――っ我が伴侶に何をする!』
え、しゃべっ・・・・・・んん、伴侶?
私バロンの伴侶なの?種族違うよ?猫と人だよ?いや、私も猫ではあるけど。え、なに、バロンさんどういうことなの。
私の混乱をよそにバロンはウサギたちを殲滅していく。
一羽目の頸を噛み切り、次羽を爪で引き裂き、背後から襲い掛かった者は後ろ足で蹴り飛ばす。
そのまま、反転して背後を取ろうとしていたウサギたちにパンチをおみまいして、最後の一羽を尻尾で払う。
尻尾で払っただけなのに威力は十分でウサギは花畑に打ち倒された。白い
緑の地面に倒れたウサギはよろよろと立ち上がり、バロンを見据える。すごい、生きてる。戦意も失っていない。
他のウサギは須らく一撃死している。尻尾による攻撃だったためか、バロンが手加減したのか。
バロンはゆるりと尻尾を揺らし、目を眇める。
ウサギは恐怖か、それとも、先程のダメージのせいか小刻みに小さく揺れている。
バロンに相対するの怖いよね。私も恐怖で震えたよ。何が何だか分からなくなって、とりあえず抱き着いたけど。
うん、自分の行動が意味わからない。何を考えていたのかな、あの時の私。
バロンは微作動を繰り返すウサギを前足でつつく。
それだけで弱ったウサギは後ろに倒れ、また地面に懐く。
手足を必死に動かして急所をさらす体制だけは回避した様子。お腹を下に地面へ伏せ、震えている。
バロンは尻尾をくねらせるだけで追撃はしない。
――もしかしなくても、狩猟スイッチ入ってる?
あ、ウサギが逃げ出した。
楽しそうにバロンが追いかけていく。
すぐに追いついて前足でちょん。転んだウサギが立ち上がるのを待つ。
猫って獲物を
何度も逃走劇を繰り返させられたウサギの目から光が消えていく。ウサギはもういっそ殺せって顔をしている。
私も、もう終わらせてあげてって気持ちだけれど、興奮中の猫に手を出すのは危ない。
間違えて引っ搔かれる危険性がある。バロンの場合、それが致命傷になる。というか、一撃で死ぬ。
どうすることもできずに見守る私とウサギの目が合う。
やめて。そんな目で見ないで。私は無力なの。
ウサギの黒々とした大きな目が水気をはらみ私を見つめる。チワワのCMを思い出す瞳だ。どうする、私。
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