第11話 白いチューリップ


「ありがとうございます」


「おう!」



船を降りて、おじさんに手を振る。


無事に東門にたどり着けた。途中、大通りでは見られない景色もあってなかなかに楽しめた。またおじさんの船に乗れたらいいな。



東の草原。草原と言ってもそこに生えているのは草ではない。


草原を彩るのは緑豊かな鬱金香チューリップの花だ。まだ蕾の状態で、先の方がほんのり薄紅色や白、紫色に色づき始めている。



草原を揺らした微風そよかぜを受けて香水瓶みたいな形をした風車がゆっくりと回っている。


少し離れたところで、探索者らしき人たちが兎や狐と闘っているのが見える。門の近くには魔物も探索者もいない。



さて、初戦闘である。


まずは自分たちの状態を確認。メニューを開いてステータス画面を開く。


ステータスと言ってもSTRやVIT、速さや器用さなどの項目はなく、HPやMPのバーがあるだけで数字はない。


総量不明の保持割合のみを示すバーの他には、その下に所持スキルの項目があるのみの大変シンプルなステータスである。



 ルイーゼ  Lv.1

           HP 100%

           MP 100%


 称号:  ナビさんのお気に入り

      猫の女王様


 スキル: テイム     バロン

      識別

      応急手当

      水魔法



MP・HPともに満タン。その下に見覚えのない項目を見つける。称号「ナビさんのお気に入り」と「猫の女王様」。



「ナビさんのお気に入り」はおそらくキャラクタークリエイトの時のナビさんのことだろう。気に入られたのかな。


スキル識別で調べてみると「ナビさんのお気に入り。波乱万丈な冒険ができる」と出てきた。それって、どういう効果なのだろう。



「猫の女王様」は心当たりが全くない。識別しても「女王様。女王様系統のスキルを覚えられる」とあるだけで、それ以上何もわからない。


称号の下、スキルの項目を確認しても、テイム・識別・応急手当・水魔法の四つしか見当たらず、「猫の女王様」の効果で覚えるとみられるスキルもない。



不思議に思いつつも、バロンのステータス確認に移行する。


スキル・テイムの項目の横にバロンの名前がある。


そこからバロンのステータスを開けば、バロンのHP・MPを表すバーが出てくる。どちらも100%。以上。



ステータス画面にバロンの所有スキルなどは載っていない。しかし、バロンは元々負けイベントのボスだったのだし、弱いことはないだろう。


とりあえず、バロンのHP・MPバーを常に見えるよう表示しておく。


防具などを買っていないが、バロンもいることだし何とかなると信じている。


まぁ、負けても一番最近潜った門へ死に戻るだけだし、Lv.1ならペナルティもない。



鬱金香チューリップの草原でスタンピング中の兎に近づいていく。


真っ白で小柄な兎である。前足を踏ん張り後ろ足で大地を力強く足ダンしている。心なしか目つきが鋭い。



クーゲルカニーンヒェン Lv.6



識別の結果、クーゲルカニーンヒェンという名前が判明した。


クーゲルカニーンヒェン、兎の名前が格好よすぎる。そして長い。面倒だからウサギと呼ぼう。



それにしても、識別で得られる情報が少ない。


識別。物事の種類や性質などを見分けること。一見して対象が何か判断したり、対象の違いを見分けたりするようなときに使うことが多い気がする。


そんなに詳しく観察するようなイメージはない。



そう考えれば、識別でわかる情報が少ないのもしょうがないことなのかもしれない。


キャラクリで近くに並んでいた鑑定とか鑑識とかにしておけば良かっただろうか。



ウサギの観察をしていると、バロンが腕の中から飛び降りてその場に伏せた。


お尻を上げてふりふりと揺らしている。と、思ったら一瞬のうちに距離を詰めウサギに猫パンチを決めた。


頬を打たれたウサギは吹き飛びながら消えていく。


と、その間にバロンは次の獲物に飛びかかり噛み付いている。牙がウサギの皮膚に食い込んだ瞬間に、ウサギの姿が消える。



瞬殺である。軽く一撃入れただけで倒せてしまっている。


さすがバロンさん、強い。



遠目に見る他の探索者たちはもう少し苦戦しているのだが、バロンには関係がないようだ。


視界の端で、ウサギから反撃のうさキックをもらった探索者が吹き飛んでいく。


蹴り飛ばされたお腹からくの字に折れて黄色い鬱金香チューリップの葉を引きちぎりながら地面の上を滑り、ようやく止まる。


痛そう。



兎って意外と脚力あるよね。奴らは想像しているよりも威力が強いキックを繰り出してくる。



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