第8話 裏切りのバロン


お姉さんが用紙を確認し、何か機械のようなものを取り出す。


現実世界にはない不可思議な形をした機械である。形からは何をする機械なのか想像できない。


お姉さんが持っていた用紙を機械の前に翳すと、機械の口?が開き、用紙を食べた。



っ!?食べた!?



「こちらに手を置いてください」


「え」


この何だかよく分からない珍妙な機械に手を置く?笑顔で勧めてくるけれど、本気ですか?さっき用紙を食べた機械かも怪しい物体ですけど!?



私の狐疑逡巡を知ってか知らでか、お姉さんは機械らしきものをこちらに押し出してくる。



「噛みませんかっ!?これ!!」


「噛みませんよ。噛まれた人もいません」



本当に!?先程の光景を見た後だと信用できない。


しかし、冒険者ギルドに登録するためにはこの物体に触れる必要がある。登録した冒険者は皆、これに触れているようだし、腹を括るしかないのだろう。


女は度胸。ええい、ままよ。



「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・あの、危険はないので触れてください」



分かってる。分かってはいるんですけど、見た目が。どこがどういう機能を果たすのか全く想像できない形。


こことか、そことか、突然動いたり、噛みついたりしないだろうか。



「にー・・・」


バロンが腕の下に頭を差し込み、ぐいぐいと押し上げてくる。


バロンさん、そんなことしたら例のブツに触れてしまいそうなのですが。



「はい」



お姉さんがバロンによって押し出された手の下に、すかさず機械を差し入れる。見事な連携により、私の手が機械に触れてしまった。



「―っ」



途端に崩れる硬質であった筈のフォルム。周囲に伸びる細長い何か。色は黒。いや、黄色、灰色、虹色。


先刻から、ずっと、手を引こうと力を入れているのに、いつの間に、がっちり固定されていて動かせない。


離してください、お願いします。300円あげるから~~~っ(泣)






「あたっ」


収縮を繰り返していた機械だったような気がするものが、突如、動きを止め、何かをこちらに吐き出してきた。


気が付けば機械()は元の形に戻り、鎮座している。


額を打ったそれはお姉さんによって抜け目無く受け止められていた。



「嚙まないって言ったのに・・・・・」



カウンターに泣き崩れる私の腕から抜け出したバロンが頭を前足で撫でてくる。


肉球なでなでは嬉しいけれど、先程の裏切り行為、忘れはすまい。



「危険はありませんよ。…登録は完了いたしました。こちらがギルド証です」


お姉さんが苦笑いのままカードを差し出してくる。



黒地に銀色の文字で名前や職業が書かれた高級感あふれるカードである。


光に当たると虹色に輝き、ブラックオパールを思わせて、宝石のように美しい。



「ギルド証の情報は名前以外を隠すことができます。非表示にしたい場合はカードに触れて念じてください」



言われた通りに念じたら書かれていた文字が減る。カードには私とバロンの名前のみが残っている。



「なお、従魔の名前も隠すことはできません」


「…了解です」


「ギルドでは冒険者の方を四つのランクに分けています。今は一番下のランク、無印ですが、依頼を重ねランクが上がると、ギルド証の背景に王冠が増えます」



カードを見る。シンプルに名前のみが載っている。背後にはもちろん何も描かれていない。



「ランクは、無印、冠持ち、二重冠、三重冠と上がっていきます」



冠は分かるけれど、二重冠とか三重冠は聞いたことがない。


見せてもらった見本のイラストには冠が上に一重、二重と重なった印が記載されている。二重冠と三重冠の区別が付きづらくないのかな。



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