第4話 始まりの広場


ずっとダーリン( )と触れあっていたい気持ちだが、そう言うわけにもいかない。


そろそろ移動しなければ。始まりの広場で猫を抱き締めて動かないプレイヤーがいたら目立つだろう。



「どこに行こうか?」



広場を見渡し思い迷う。赤色で統一された建物が建ち並び、それに映える真っ白な窓が目に眩しい広場だ。


赤地に白い十字の教会、白い窓と時計が嵌め込まれた時計塔、赤白の三階建ての建物に列なるようにして同じ色調の二階建ての長屋のような屋舎が続いている。


その前には色彩豊かな布が掛けられた露店らしきものが列をなし、店頭には百花のごとく華やかな色合いの品々が並べられている。



ゲームを始めたら、冒険者ギルドに行くのが定石だが、どこにあるのだろうか。


周囲を見渡していると、教会の前に立つ人の良さそうな青年と目があった。



「アンデジェスチョンへようこそ」



穏やかに笑いかけられて、ほっとする。とりあえず愛想笑いしておこう。



「アンデジェスチョン?」


「始まりの国、アンデジェスチョン・・・この国の名前ですよ。可愛らしい白猫のお嬢さん」



白猫。そうだ、今の私は白猫だった。


猫と言っても腕の中の黒猫と違い完全な猫という訳ではなく、猫獣人である。


ストレートの銀髪に青い瞳、黒猫をサイベリアンだとするのなら、私はロシアンブルーだろうか。


どことなく上品そうに見える見た目が気に入っている。ナビのお兄さんに教えてもらいながらメイクした渾身のキャラクターだ。



ナビのお兄さんと言えば、種族選択で猫獣人を選んだときに、肘を曲げて顔の前で握りこぶしをつくるポーズと万歳をしたポーズを繰り返させられたのは何だったんだろう。


お兄さんは楽しそうに、「うー」とか「にゃー」とか言っていたけれど。猫だから、「にゃー」なのかな。猫好きのお兄さんでテンション上がっちゃったとか。



「え、えへっ・・・ありがとうございます」



それにしても、面と向かって可愛いとか言われると照れる。



「あの、冒険者ギルドってどこにありますか?」


「冒険者ギルド?」



思いがけない言葉を聞いたと言わんばかりに目を丸くした青年を見て、不安が過る。


もしかして、冒険者ギルドが存在しない世界なのだろうか。絵空事を真剣に話しちゃう痛い子と誤解されたかも。



「お嬢さんは、探索者なのですね」



探索者?プレイヤーのことだろうか。



「今日から“此方”に来たルイーゼと申します。あの、あの・・・・・」


「冒険者ギルドは、右手側に見える建物の裏、運河沿いを下った左手側にありますよ」



そう言って左手を挙げて示す。冒険者ギルドは存在した。良かった。痛い子じゃない。



「ここ、アンデジェスチョンの始まりの広場は、導かれし探索者が初めて降り立つ場所と言い伝えられています」



なるぼと。イディ夢ではプレイヤーのことを探索者と呼ぶんだな。


『イディオートの夢』、巷ではイディ夢とか愚者夢とか白夢とか好き勝手呼ばれているフルダイブ型VRMMOゲームだ。


私はイディ夢派。そもそも、白夢の白はどこから出てきたのか。



イディ夢はスキルの豊富さと職業選択の自由度が自慢らしい。ナビのお兄さんが教えてくれた。


確かにキャラクターを作るときにスキルが選べないくらい沢山あった。



「申し遅れました・・・私は始まりの広場近くの教会に勤める神父クロウと申します。


今日初めて来られたのなら、此方のことをあまりご存じではないでのしょう。よろしければ、私がご案内しますよ」



そう言って微笑むクロウさん、好い人。良かった。あそこでクロウさんに声かけて。



「ぜひお願いします」



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