第5話 まぁ!あなた緩衝材っていうのね!


クロウさんによると、ここ、探索者が最初に訪れるこの国は、四つの強国に囲まれており、それぞれ、龍の国、鳳の国、虎の国、亀の国と通称されるそうな。


東に位置する龍の国は、緑豊かで牧畜が盛ん、南の鳳の国は娯楽に特化し、西の虎の国は豊漁で有名、北の亀の国は技術力に優れている。



「四国は大変仲が悪く、国境を谷や山脈に遮られていなければ直ぐにでも戦争を始めただろうと言われています」


なにそれ怖い。仲悪い国って東と西の大国みたいな感じだろうか。両国が山を挟んで隣同士的な。冷戦始まっちゃうのかな。



「アンデジェスチョンはそんな四国の国境を塞き止めている谷や山脈が途切れる場所に位置しています。


四国のちょうど真ん中、四国の国境に跨がるようにアンデジェスチョンは存在しています」


え、なに、その四面楚歌。なんで仲悪い四国による包囲網が築かれてるの。恐ろしい構図だ。


強国四つのにらみ合いに挟まれるとかジャイ〇ン4に囲まれたの〇太じゃないの。助けてくれるドラ〇もんは何処。



「安心してください、安全ですよ。アンデジェスチョンは。」


…穿いてるからですか?



「四国にこの国を占領する意志はありませんから」


それは良かった。でも、何故安全だと言い切れるのだろう。仲の悪い四国だし、どこかが攻めてくる可能性もあるのではないだろうか。



「この国はこれと言った特色もなく、農業も漁業も産業も他の国に勝てず、周囲の魔物も弱く、専業冒険者がいないこともあり、魔物の素材を売りにすることもできません」


クロウさん、晴れ晴れとしたいい笑顔。話の内容との齟齬が大きくて理解が追い付かない。


専業冒険者がいない?副業冒険者しかいないということだろうか。つまり、冒険者は皆片手間に冒険している人たちなのかな。



「この国は占領しても何の旨味もないのです」


いや、作物もお魚もモンスターも、多くは取れなくても平均的に全部を揃えられるなら素晴らしいのではないでしょうか。


え、取れない?渓谷や山脈から悪い影響を受けて自国で消費する分に届くか届かないかくらいしか得られない?


自国分しか生産できず、加工する余剰も技術もない?



「負債国は占領せずに四国の国境を塞ぐ防波堤として、緩衝材として残そうというのが四国の総意です」


「あの・・・・・」


そんな悲しいことを笑顔で断言しないで下さい。良いとこなしとか悲し過ぎます。


きっと、探せば、なにか取り柄があるはず。


ほ、ほら、暗い話ばかりではなく、楽しい話をしましょう。そうすれば、何かこの国の取り柄も見つかるはず。



「ああ、この国にも取り柄はあります。それは――」


「それは?」


「それは、緩衝材となることです」


見事なドヤ顔。・・・・・え、



「えっ!?あの、クロウさん?!」


「この国の通称は緩衝材国家なのですよ」


爽やかな笑顔が眩しい。でも笑顔が疲れて見えるのは気のせいだろうか。笑い声がやけに渇いて聞こえる。


緩衝材国家って何。もっと素敵なあだ名を付けられなかったの。



「良い笑顔ですけどっ、自棄になってませんか!?」


「どうぞ親しみを込めて緩衝材国と読んで下さいね」


学校の自己紹介なら百点満点の笑顔である。友達百人出来そうだ。緩衝材呼びをお願いしてさえなければ。



「自棄になってるんですねっ?!」



広場にはしばらく嫌に乾いた笑い声が響き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る