第1章 始まりの国
第3話 花薫る広場に黒猫
中央に石造りの噴水。
その周りに色とりどりの花々が植えられ、華やいだ雰囲気を醸し出している。
花々のみどりとコントラストを描くような建物の赤が目に眩しい。
正面に見えるのは教会だろうか。白み掛かった赤い壁に真っ白な十字がよく映えている。
行き交う人々の
おそらくここは始まりの広場。チュートリアルが終わって転送されたのだろう。
何か、途方もなく大きな猫(猫というにはかなり凶悪な外見)に抱きついて撫で回す夢を見た気がする。
いや、まさか、自分がそんな事をする訳ないし、うん。
いくら猫好きでも(そもそもあれは猫に見えなかった)、明らかに危険とわかっているモンスターにのこのこ近づいたりしないし、あまつさえ、もふもふを堪能したりしない。
もぞり、と腕の中で何かが動く。
いけない、思考に没頭して強く抱きすぎた。謝りつつも、腕の力を緩める。
変な夢を見たな、と気持ちを切り替えようと深呼吸をして、気がつく。
自分は腕に何を抱いているのか。
視線の先で黒く長い毛が風に揺られている。周囲を窺うように柔らかそうな耳が動いている。金色の美しい目がゆっくりと瞬いてこちらを見る。
――イケメンだ。格好いい。素敵。
様々な賛辞が頭の中を彗星のごとく流れていく。
いや、しかし、どちら様?
心当たりと言えば、先程の夢。
もしや、夢ではなかったのだろうか。
そういえば、チュートリアルをしていたはずなのにすっ飛ばして広場にいる。
つまりは、あれがチュートリアル?
チュートリアルが負けイベントなの?負けイベントから始まるゲームってどういうことなの?
負けてないけど、負けるどころかラスボスが味方になってるけど。
――チュートリアルで負けイベントのラスボスがテイム出来てしまった件。
掲示板に報告すれば大炎上間違いなし。やったね。
え、どうしよう。
困り果てて、腕の中のにゃんこを見る。
猫としては大きな身体に長い毛足、毛が長すぎて顔と身体の境目がわからない。首はどこ。
たぶん、種類はノルウェー・・・・、じゃなくて、サイベリアンフォレストキャット。真っ黒な子は珍しい。
おそらく、正体は先程の“黒い何か”。
あんなに大きくて、恐ろしかったのに、今は凄く可愛い。
これが一粒で二度美味しいというやつだろうか。
うん、いや、でも・・・
思い出すのは抱きついた極上の感触。そして、今感じる幸せの感触。
ありだな。
あり寄りのありだ。金色の瞳に見つめられ、すべてがどうでもよくなってくる。
「最強だ・・・・すごい・・・」
極上のもふもふなでっかいにゃんこ(猫というには(ry…)と、腕の中に納まるふわっふわっのにゃんこの二形態を取れるなんて強すぎる。
なんて素晴らしい相棒なんだ。
「好き・・・」
高ぶる感情のまま、頬を寄せる。
黒猫は大きく喉を鳴らし、頭を擦り寄せてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます