第2話 あなた以外みえない


もふりっ



触れた身体が感触を伝える。


え、手触り最高かよ。


一瞬、頭の中が真っ白になった。そのまま、衝動的に抱きつき、撫で回す。



まずは、頬。ひげは触らないように気を付けつつ、もふもふの頬っぺたを撫でる。


次に耳の下、それから、耳の横。耳の近くの筋肉はよく使われるため凝りやすい。マッサージをするように捏ねくり回す。


毛足の長い柔らかい感触が体全体を包み込んでくる。



「最高・・・・・」



顎の下も大切だ。此処をこしょこしょと擽るのを忘れてはならない。手の平を超えて手首まで届く長い毛が皮膚を撫でる感触に酔いしれながら手を動かす。



「素敵・・・・・・」



ごろごろどころかばるんばるんという爆音が鳴り響き、心地好い振動が身体を震わせている。


なんだこれ、癖になりそう。


夢見心地に見つめる先で漆黒に蠢く毛皮が美しい。この世のものとは思えないおぞましい顔だと感じたが、こうして見てみると



「格好いい・・・・・・」



ずっと見つめていると、だんだん愛おしく見えてくる気がする。


そのまま、全身全霊で褒め称え、撫で回し、どれ程経ったのか体感時間が狂い始めた頃、お知らせが流れた。




《????のテイムに成功しました。》




テイムって何だっけ?


抱きついた極上のもふもふに夢中で、流れる声を上の空で聞き流す。


辺りに響く爆音を背景に二人きりの時間を堪能していると、突然、音が止んだ。



不思議に思い上げようとした頭の上に顎が添えられ、固定される。顔が動かせない。


ああ、でも、この感触は素晴らし過ぎる。恍惚として抱きついた姿勢から、更に距離を詰める。



「・・・・・まさか、此奴が受け入れるとは・・・・」



誰かの声がする。


頭の上からではなく、後方。誰かいるの?


頭を動かそうにも先程顎に固定されてしまった。視線だけでも動かしてみたが、もふもふに阻まれて何も見えない。


待って、この体制、貴方以外何も見えないの(物理)。もう少し横にずれてください。



「・・・これも運命か・・・・・・」



もふもふガードが固すぎる。何も見えない。


声が聞こえてからのち、喉の奥からは心地好い爆音ではなく、低い唸り声が響いている。


話しているのは誰?貴方は何に対して唸っているの?



声の主が現れてから、急に空間の温度が上がった気がする。背中から焼けつくような暑さを感じる。


私の背後に何が居るんですか?



「しかし、このままでは些か問題もあろう・・・」


背後で何かが動く気配を感じる。




「異食の徒となるか、それとも・・・・・・」





――まぁ、好きにせよ







視界の端で銀色に耀く靄が見えた気がした。

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