第354話 教授のラブレター騒動3


 一時限目の講義というのはまだ頭も覚醒していない中で、知識を脳みそに叩きこまないといけないため、講義の合間に買っておいたブラックコーヒーを喉に流し込んで無理やり頭を働かせているうちに教授の講義は終わっていた。


 今日は砂橋と会って、砂橋が見繕って読んだ本を説明を受けながら俺も読む約束をしている。二時限目はお互いに講義が入っていないため、食堂二階の丸テーブルで落ち合うことにしている。


 資料をまとめて黒革の鞄の中に突っ込み、ふと、ホワイトボードに先ほどの講義の内容がうっすらと残っているのに気づいた。思い返してみると先ほど浜元教授は何かに急かされているかのように慌てて教室を出て行ったようだった。


 他の生徒はどんどんと教室から出て行って、誰もホワイトボードなど気にしていない。


 俺は鞄を肩から提げて、ホワイトボードへ近づくとホワイトボード消しを手に取って、残っている講義の名残を消し始めた。砂橋も一時限目の講義が終わってから食堂二階の丸テーブルに向かうと言っていた。ホワイトボードを消す程度の遅れは気にしないだろう。


「……ん?」


 教壇の中に、分厚いファイリングが置かれていた。水色のファイリングには『浜元』と書かれている。浜元教授の忘れ物だろうか。肩の鞄の紐の位置を直しながら、教壇の中からファイリングを取り出して、中身を開いてみる。どうやら、今日の講義ではないが、浜元教授の授業で提出された生徒達のレポートが挟まっていた。


 俺はじっくり中身を見ようとして、すぐにやめて、ファイリングを閉じて、小脇にしっかりと抱える。


 スマホを取り出して、砂橋に連絡を入れる。


『少し野暮用ができたから十分ほど遅れる』

『了解』


 そっけない返事を見て、俺は教授の研究室が集まる研究棟へと足を向けた。


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