第351話 殺人ヘアカット【完】
血塗れの美容室での出来事から数日後、俺のスマホに熊岸警部から連絡があった。
「本当に砂橋の言っていた通りだったとはな」
「俺がいない間に砂橋さんが誰のかも分からない血を被っていたなんて……!」
探偵事務所セレストで、砂橋の隣のデスクに座った俺が熊岸警部から受けた報告を話そうとすると、砂橋は「お菓子を買いに行く」と言って出て行ってしまった。
探偵事務所に残された俺は、笹川に「この前の電話はいったいどういうことだったんですか」と問い詰められたのだ。
島津と西片は、恐ろしいことに互いに傷つけあい、殴り合って気絶したらしい。
二人は殺す人間を見繕うと美容院に連れてきて、閉店後の美容院で殺害していた。小松は脅されて、二人の犯行に加担することになり、浅井博樹という人間を見繕って、美容院に連れてくることとなった。
この浅井博樹という六十一歳の無職の男性は、近隣住民とのトラブルを頻繁に起こし、訪れた店では店員を怒鳴り散らすというようなことを様々な場所で行っていた。だからといって、殺していい理由にはならないと思うが。
「ただいま~」
砂橋は両手いっぱいにお菓子の入った紙袋を抱えていた。
「あの日、小松くんがくれたお菓子をもらって帰ってなかったなと思って。猫谷刑事に近くまで持ってくるように頼んでたんだよね」
殺人現場にあった菓子をよく食べようと思えるな。
「猫谷刑事から事件のことは聞いたか?」
「うん、あの二人が連続殺人を行おうと思ったきっかけが二ヶ月前に発売されたミステリーのゲームを見て、やってみたくなったっていうしょうもない理由だったってことは聞いたよ」
俺もその理由を熊岸警部から聞いた時は同じことを思った。
昼の報道が喜んで飛びつきそうな内容だ。
「自分が人を殺した理由をゲームに押し付けるなんて、本当にダサいよね。なんだっけ? 殺人鬼チュパカブラ。……最初から最後までださかったな」
あまりにもださいださいと砂橋は菓子の袋を吟味しながらデスクに並べている間も呟くため、俺は堪えきれず笑ってしまった。笹川に睨まれ「殺人事件が起きているのに不謹慎ですよ、弾正!」と窘められてしまった。
きっと笑い声をあげたのが砂橋だったら、笹川に睨まれることもなかっただろう。
砂橋は美容院で血塗れになりながら笑い声をあげても怒られなかったのに。
「理不尽だ……」
俺の呟きに砂橋が堪えきれなかった笑い声を少しだけ漏らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます