第350話 殺人ヘアカット14
自分の家に帰り、リビングを歩き回ろうとしていた砂橋を風呂場に放り込んで、ビーフシチューを作り終わった頃にはもうすでに二十一時を越えていた。
「おいし~い!」
「お前がパン屋のバゲットがいいっていうから何軒かパン屋をはしごしたんだぞ」
そのせいで、総菜パンや菓子パンをいくつも冷蔵庫の中に押し込むはめになった。もちろん、返り血まみれの砂橋は車内に残して、通話をしながらパンを買うことになった。
「砂橋。小松秀伸はどんな人間だったんだ?」
砂橋は一口サイズに切ってやったバゲットにフォークを突き刺して、ビーフシチューに沈めた。
「アホ」
「……それだけじゃないだろう」
高校時代の知り合いで、なおかつ今回の連続殺人事件に砂橋を巻き込んで亡くなった人間だ。たった一言で終わるはずがない。
「アホだよ。人質がいようがなんだろうが、島津さんと西片さんの二人が犯人だって最初から警察に駆けこんでたら、二人は逮捕されて、自分が死ぬこともなかったんだよ?」
「確かにそうだが……」
人は追い詰められると何をするか分からない。
きっと小松も自分が殺されるという極限状態の中、少しでも自分の寿命を伸ばそうと空回ったのだろう。
最後の最後にまで警察に犯行の概要を送るのではなく、砂橋に謝罪文を送る始末だ。気が動転していたのが手に取るように分かる。
そういえば、砂橋に送られたメールには続きがあったような気がする。
「砂橋、小松からのメール、最後には何が書いてあったんだ?」
「最後?」
「メールが届くといいと思う、の後だ」
「気になる?」
俺は一度頷いた。
砂橋は俺に伝えていいものかと悩みながら、ビーフシチューに浸したバゲットを口の中に放り込む。適度に冷ましたおかげで口に放り込んでも火傷はしないだろう。
「追伸、僕が用意した謎はお気に召した?」
「は?」
俺の反応を見るや否や、砂橋は大袈裟にため息をついた。俺に対してではないだろう。死を前にして、そのような文を残す小松秀伸という男に対してのため息に違いない。
「この一言で小松くんがどういう人なのか分かった?」
「……要するに、イカレてるってことか?」
「そういうこと」
高校時代の知り合いに関して、砂橋に聞いたことがあり、俺が出会ったことのある人間は湯浅先生だけだ。湯浅先生の時点で、砂橋が高校時代から少し周りとずれた人間と付き合っていることは知っていたが、小松もその類だとは思わなかった。
「数日後には詳しいことが分かると思うから熊岸警部からの連絡待ちかな~」
砂橋はホットミルクをちびちびと飲みながら、その合間にため息を吐いた。
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