第343話 殺人ヘアカット7
「お二人の名前をうかがってもいいでしょうか?」
「俺は島津門次。それでこっちが西片彰久です」
眼鏡をかけた高身長の男性は島津門次。小松の悲鳴を聞いた時、待合室付近にいた。
小太りの男性は西片彰久。小松の悲鳴の後に聞こえた島津の悲鳴を聞いて、事務室から美容室へと戻ってきた。
この二人はどちらも砂橋がナイフを持って切りつけていたと言っている。
「二人が悲鳴を聞いた時、小松さんはどのような状態でしたか?」
俺の質問に二人をお互いに目を合わせた。「あれは……」「首だったよな……」と二人で当時の状況を思い出そうとしている。
「秀伸なら首を切られて、倒れてたよ。手で首を抑えてたから間違いない」
西片が、自身の首の右側を手の平で押さえる。証言は、先ほど猫谷刑事に聞いた遺体の状況と一致している。
「秀伸が逃げられないからって、あいつは次に俺に襲い掛かってきたんだ。もみ合ってる途中でこけて、頭を打って気絶したんだよ」
島津が忌々しそうに目の前にある背の低いガラスのテーブルを指さした。そして、彼は後頭部をさする。どうやら、血を流すほどの怪我にはならなかったようだが、彼は後頭部をこのガラスのテーブルに打ち付けて意識を失ったらしい。
「俺が事務室から出てきた時には門次は倒れてて、目の前にあいつがやってきて、ナイフで切り付けてきたと思ったら、花瓶でぶん殴られて、これ」
西片さんは自身の頭に巻きつけられた包帯を指さした。
振り返ってレジの方を見ると、床には白い破片のようなものが散らばっている。西片さんの頭に叩きつけられた花瓶の破片だろう。
「それで、二人とも意識を失ってしまったんですね」
「あの時、俺たちが気絶しなかったらもしかしたら秀伸は……」
島津が膝の上で拳を握りしめた。
俺は砂橋は犯人じゃないと思っているからこそ、この二人を慰めるような言葉をかけてやることはできない。
ちらりと窓に視線を投げられるが、茶色と白のストライプのロールスクリーンが窓全体を覆っており、外から中の様子を見ることは不可能だ。
悲鳴は外に聞こえなかったのだろうか。
よほど閑散とした道でない限り、悲鳴ぐらいは周囲に聞こえるだろう。
「すぐにあいつ捕まるんですよね?」
「え」
窓を覆うロールスクリーンを見ていた俺を現実に引き戻すように、西片が声をかけてきた。
「俺たちの前で秀伸をやったあいつを……」
なんて言ったらいいものか。
「犯人なら、すぐに捕まると思いますよ」
俺はその言葉だけ捻りだした。
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