第341話 殺人ヘアカット5


「そして、身体に刺し傷と首に切り傷。この殺し方からして、二ヶ月前から起こっている連続殺人事件の犯行と酷似しているとみて、捜査をしようと」

「待って。二ヶ月前から起こっている連続殺人事件? あれ、まだ解決できてなかったの?」


 いつだったか、砂橋と食事をしている時に見たニュースでやっていたものと同じだろう。


 発見された死体からは血が大量に失われているにも関わらず、周りには血が流れた跡などが一切なかったため、この連続殺人事件を起こしている犯人は、殺人鬼チュパカブラという新聞に掲載するにはあまりにも間抜けで稚拙な名前がネット掲示板ではつけられていた。


 そして、その殺人鬼チュパカブラの名前を、夕方の情報番組でコメンテーターが嬉々として語っている時、俺は思わず額を抑えて、テレビの電源を切ったのだ。


「あまりにも被害者が姿を消した場所や、時間、被害者の特徴などに共通点がなく、捜査が難航していたんです」


 殺人鬼と呼ばれる人間が起こす事件には、共通点が存在する。被害者が同じような見た目をしていたり、殺し方が一緒だったり、特定の日に殺人事件が起こったり。事件に一貫性があれば、あるほど、警察は犯人を捕まえやすくなるのではないか。


 俺はスマホを取り出して、ネットで「殺人鬼チュパカブラ」を検索した。

 砂橋が俺のスマホを覗き込んできた。


 どこにそんな暇人がいるのかは分からないが、ネットには「殺人鬼チュパカブラ」についての記事やネットでのコメントなどを集めたサイトが作られていた。


 現在、警察が同一犯とみて捜査しているのは七月上旬から行われた六件の殺人事件。一ヶ月に二人ないしは三人殺害している。


 被害者は男女問わず、そして、年齢も一番若い被害者が十五歳、一番年齢が高い被害者は六十一歳と、幅が広い。


「で、今回の事件もその連続殺人っぽいから、僕がその連続殺人を行っていたってことにしたいわけだ」


「そういうわけではないです。この事件の犯人が砂橋さんであれば、砂橋さんが今までの連続殺人事件の犯人でもある可能性があると思っているだけです」


 猫谷刑事は、もう少しオブラートに包んで物を言う事はできないのか。まだ確信もないのに「貴方を連続殺人事件の犯人かもしれないと思っています」という人間がどこにいるというのだ。


「それだけ殺人を行っているのなら、アリバイぐらいあるよ。弾正はスケジュール帳に余白を作らないタイプだからね。僕の予定ぐらい弾正に聞けば一発で、アリバイが成立するよ」


 確かに俺はスケジュール帳にこれからの予定だけではなく、その日にしたことまで書き込む。砂橋と一緒に行動したのであれば、絶対にスケジュール帳に書き込んでいるはずだ。


 俺が鞄からスケジュール帳を取り出し、猫谷刑事はそれに合わせて、自分の手帳のページを数ページほど戻した。


「では、まず七月九日」

「その日は砂橋に会ってない」


「七月二十一日」

「会ってない」


「八月二日」

「会ってない」


「八月十日」

「会ってない」


「八月二十六日」

「……会ってない」


「九月四日」

「……会ってないな」


 猫谷刑事が大きなため息をついた。


 これで六件の殺人事件が起こったであろう日にちは全部なのか。猫谷刑事はわざと砂橋が俺と行動していない日時を言っているだけではないのか。


 俺は思わず砂橋に視線を向けた。

 砂橋にもこの事実は受け入れがたいようで、目を丸くして、俺を見ていた。


「そして、今回もアリバイはないだけではなく、現場にいたと……」

「……たまたまじゃない?」


「たまたまでアリバイが一つもないことなんてありますか? それとも、弾正さん以外に砂橋さんのその日のアリバイを証明してくれる人間はいますか?」


「……笹川くんぐらいじゃないかな」


 六件も殺人事件が起こっていて俺も笹川も砂橋のアリバイを証明できないことがあるはずがない。

 俺は連絡先の中から笹川をすぐに探し出した。

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