第338話 殺人ヘアカット2


 執筆の手を止めて、息を吐く。


 執筆をしている間は呼吸を止めているんじゃないかと思うほど集中しているため、最近は時間を測って、執筆の合間に深呼吸をするというルーティンを試している。


「今日の執筆はこれでひと段落か……」


 夕飯は何を作ろうかと悩んでいると、少し離れたところに置いていたスマホが震えた。席を立って、スマホを置いた本棚まで歩くと画面に見えるのは「熊岸警部」という文字。


 慌ててスマホを手に取り、耳に当てる。


「もしもし」

『弾正か? 今すぐ言う住所のところまで来てくれ』


 俺はデスクまで戻って、ペンとメモ帳を用意した。


 熊岸警部から俺に連絡が来るとは珍しい。いつも、彼は砂橋と連絡を取っているのだが。彼が告げた住所をメモして、通話をスピーカーにして、スマホで住所を調べる。


 美容室「Beauty Gate」と検索結果が出てきて、俺は首を捻る。何故、美容室に熊岸警部が俺を呼び出すのか。


「向かいますけど、何があったんですか?」


 俺は鞄を肩にかけ、玄関へと向かう。鞄の外のポケットから家の鍵を取り出していると熊岸警部が電話の向こうで大きくため息をつくのが分かった。


『砂橋が、殺人事件を起こしたかもしれない』


 俺は手に取ったばかりの鍵を玄関の床に落とした。


「はい?」


 そして、俺は次に口をついて出る言葉を抑えることができなかった。


「やっとやらかしましたか、あいつ?」


 熊岸警部に電話越しに「不謹慎なことを言うもんじゃない」と怒られてしまった。

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