第336話 栖川村祟り事件【完】
俺たちは少しだけ話した後、車に乗り込んだ。
「いつもは僕に余計なことを言うなって言ってるくせに、自分は言っていいと思ったの?」
「……悪い」
これは弁明しようがない。
父親や村の人間が隠しているのであれば、俺が踏み込んでいい話ではないだろう。
暁之佑さんはもしかしたら杏里のために尾川哲郎を殺して、東の焚き火台の中に死体を隠したのかもしれない。
「……そもそもどうして、死体を焚き火台の中に隠したんだ?」
「死体をお焚き上げついでに燃やそうとでも思ったんじゃない?」
興味のなさそうな返事を砂橋からもらう。
「だとしてもわざわざ東の焚き火台の中に隠す必要はないだろう?暁之佑さんは西の神社の神主だ。それに西の神社の傍にある暁之佑さんと杏里の家に尾川哲郎が来て、殺したのであれば、そのまま西の焚き火台に死体を隠せばいいだろう?」
砂橋は隣で、昨日食べ切らなかったモナカを食べ始めた。
そうだ。
わざわざ東に死体を隠した理由はなんなんだ。
「自分が犯人だと思われたくなかったのかもしれないね」
東の焚き火台の中から死体が出て、その死体は尾川哲郎のものだろうとなった時、どうなった?
村人たちは、尾川哲郎に悩まされていた樹を犯人だと思い始めた。もし、西で死体が発見されていたら、もしかしたら、杏里が犯人だと思われていたかもしれない。
「どうして、わざわざ橋を燃やして、死体を移動させたんだ?」
死体を移動させなければ、ワイヤーの跡に砂橋が気づくこともなく、井戸の滑車も使わず、誰かが尾川哲郎を殺して、焚き火台の中に隠しただけの事件になって、犯人もすぐにばれることはなかったはずだ。
「橋を燃やした後に西に死体が出たことで、橋が落ちた後に東にいた僕らは全員アリバイがあったことになるでしょ」
橋が燃やされて、死体が西に移動された間、俺と砂橋は杏里と樹と一緒に栖川さんの家に泊まっていた。
「……もしかして、樹のアリバイを作るためか?」
「結婚もしたいほどお互いを愛し合っているのなら、父親たちももちろんそれは知ってるし、暁之佑さんも娘の好きな人に疑いをかえようとは思わなかったんでしょ」
杏里と樹に俺たちと一緒に栖川さんの家に泊まるように指示したのは倫太朗さんと暁之佑さんだろう。
やはり、倫太朗さんは暁之佑さんのトリックに加担していたのか。そうでなければ、暁之佑さんと行動しているのに、倫太朗さんが暁之佑さんの仕掛けをする怪しい行動に気づかないはずがないのだ。
「杏里と樹は、養子の件を聞くことはないだろうな」
「たぶんね。父親である暁之佑さんが話さなかったんだから栖川さんも二人に話さないでしょ」
「そうか……」
真実を知るのは、その人にとっていいことなのか、それとも悪いことなのか。俺は杏里本人ではないから分かるはずもない。
しかし、真実を知った後は、知る前には戻れないことは分かっている。
「倫太朗さんが本当は共犯でも、そうじゃなくても、僕らには関係のないことでしょ。あの様子からして、本気で犯人をうやむやにするつもりはなかったんだろうし」
今思うと暁之佑さんはずいぶんあっさりと犯行を白状した。むしろ、倫太朗さんはそれを庇おうとしていたように見える。
「暁之佑さんが尾川哲郎を殺して、焚き火台に死体を隠す時か、お焚き上げの後か、どちらかは知らないけど、自分の犯行だと倫太朗さんに話した。そして、倫太朗さんは協力することにした」
「しかし、結局自分の犯行だと告白した、か……」
ならば、最初から焚き火台の中に死体を隠すなんて面倒なことをしなければいいものを。
「鬼が持って行ってくれるのを期待したんじゃない?」
「……まさか」
俺が車を走らせて、三十分ほどした頃、俺たちの会話を遮るように砂橋のスマホがけたたましく鳴り始めた。
「そういえば、砂橋、黒電話で一瞬だけ電話をかけたと言っていたが、誰にかけたんだ?」
「……笹川くん」
「……今すぐ出てやれ」
俺は盛大なため息をついた。探偵事務所に帰るまで一時間ほど笹川のお小言をスピーカーで聞かされ続けた。
しかも、途中からは砂橋が助手席で寝てしまい、お小言の大半を俺が聞くことになった。
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