第335話 栖川村祟り事件39


 墓参りから帰ってきたところで栖川さんの三男の祐司さんが家にやってきて、挨拶をして俺たちは帰ることにした。


 西でずっと俺の車を置いていてくれた山住さんにお礼をしていると後ろから声がした。


「砂橋さん!弾正さん!待ってください!」


 振り返るとそこには杏里と樹がいた。走ってきたのか、息を切らしている。


「二人ともどうしたの?」

「何も言わずに帰っちゃうって聞いたので慌てて……」


 俺は思わず砂橋の方を見た。余計なことを言うなよと思いながら、砂橋を見たが、かといって、この二人にどういう言葉をかけていいのか、分からない。


「落ち着いたら……結婚式をあげようって話になったんです」

「は?」


 俺は思わず素っ頓狂な声をあげた。

 いきなり話が飛びすぎじゃないか?


「だから、結婚式には、砂橋さんと弾正さんにも来てほしいんです」

「は?」


 今度は俺の代わりに砂橋が素っ頓狂な声をあげた。


「えっと……昨日の今日で?」


 砂橋が珍しくまともなことを言っている。


「しきたりと神社のことはもう気にしなくていい。他の大人たちのことは、栖川さんや樹ちゃんのお父さんがなんとかするって言ってて……それに、お父さんも、哲郎くんが家に押し入ってきて仕方なくって言ってたから……」


 俺は目を丸くした。

 杏里はそう聞いているのか。


 もしかして、杏里は自分が養子ということも知らないんじゃないんだろうか。


 そもそも、尾川哲郎はあのノートを盗んで暁之佑さんに金を寄越せと言った。


 神社の神主に金などあるはずもない。尾川哲郎は何度も杏里と樹にちょっかいをかけていたと言われていた。


 もしかしたら、尾川哲郎は金以外のものを要求したのではないか?

 金以外に小桧山家にあるものといえば……。


「杏里、聞きたいことが」

「弾正」


 砂橋が静かに俺の名を呼んだ。

 俺は言おうとしたことを飲み込んで、言葉を続けた。


「結婚式はいつ頃挙げるつもりなんだ?」


 俺の質問に杏里はくすくすと笑った。


「落ち着いたらって言ったじゃないですか。まだ分かりませんよ」

「それもそうだな……。もし結婚式に招待したいのなら、ここに連絡してくれ」


 俺はスマホを取り出して、杏里と樹に連絡先を教えた。


 二人ともから元気のようだったが、それでも、今まで反対されていた結婚を許してもらえるということもあり、辛いばかりではないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る