第329話 栖川村祟り事件33


 夕飯は、鮎の塩焼きに味噌汁、揚げ野菜に大根サラダ、ひじきの煮物と豪勢なものだった。


 俺と砂橋が栖川さんの家の前に来たところで樹と杏里が玄関から出てきて、夕飯ができたと俺たちを呼びに行くところだと教えてくれた。


 塩を散らした鮎の身は、口の中でほろほろと崩れていて、とてもご飯に合うが、その味よりも俺は砂橋の「犯人分かった」という言葉が気になって、食事中、何度も砂橋のことを見てしまっていた。


 その視線に気づいていたのか、砂橋はひじきの煮物と鮎を半分ほど食べた辺りで、俺と目を合わせた。


 呆れるような視線を向けられ、思わず目を逸らす。


「ねぇ、聞いてほしいんだけど」


 砂橋の言葉は俺に向けられたものだと勘違いしたが、砂橋の顔を見るともうすでに俺の方は見ておらず、一緒に食事をしている杏里や樹、栖川さんへ向けられた言葉だと気づいた。


「事件について、あることが分かったから二人のお父さんには話をしておきたいんだ。神社に関わることだし」


 砂橋が夕食の席でいきなり真面目な話をし始めたからか、杏里と樹は箸を持ち上げたまま固まってしまっていた。


「あることってなに……?」

「聞きたい?」


 聞かない方がいい。


 砂橋がこうやってワンクッション置く時は、何かしら相手にダメージがあるかもしれない話題を振る時だろう。そして、相手が聞きたいと言ったら、その事実を伝え、ショックを受けていようが「君が聞きたいって言ったんでしょう?」と肩を竦める。


 砂橋はそういう人間だ。


「杏里、樹、あまり聞かない方がいい」


 俺にはこういう言葉しか思いつかない。


 しかし、聡い二人は何かに気づいたようで「分かりました……」と頷いた。納得は、完全にはしていないだろうが。


「じゃあ、とりあえず、夕飯の後に二人のお父さんを神社に集めてほしいんだけど」

「えっと、神社ってどっちの神社ですか?」

「あ」


 樹の言葉に砂橋が間抜けな声をあげた。


 そういえば、猪ヶ倉にも夕飯後に神社に来るようにと伝えていたが、東と西、どちらに集合なのかは伝えていなかった。


 猪ヶ倉が来るかどうかは分からないが、あまりにも不親切な約束を取り付けたことに俺もたった今気づいて、ため息をついた。


「じゃあ、とりあえず、西の神社で」

「猪ヶ倉はどうするんだ」

「まぁ、来たいのなら合流するでしょ」


 俺は砂橋の反省を一切していない態度もまたため息をついた。


「仕方ないじゃん。こんなに近くに神社が二つもあることがないんだから」


 砂橋はそう言いながら、不服そうに顔を顰めた。

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