第323話 栖川村祟り事件27
朝は遅かったため、杏里と樹が用意してくれたおにぎりと漬け物を縁側でいただいて、そのまま草むしりの作業に戻ったが、昼は昨日、白玉あんみつを食べた時と同じく、ダイニングのテーブルについて、五人で食べることになった。
鶏むね肉となすを油に通して、皿にのせた後にすりおろした大根おろしを被せ、ぽん酢やみりんなどの調味料で味付けをしていく。調味料で染まった大根おろしの上に水菜を置いたら、完成だ。
ぽん酢のおかげでさっぱりとした味わいになっている鶏むね肉となすに、ご飯が進んだ。
「鶏むね肉は昨日のうちに味付けをして、染みこませていたのよ」
是非、後でレシピを聞いておかなければ、と心に決めながら、俺はしっかりと料理を味わうことにした。
「美味しいね」
「栖川さ~ん!」
自分の皿に残っている鶏むね肉となすのうち、どちらを次に食べようか迷っていると、ダイニング以外の場所から声がした。縁側からだ。
「はいはい、なにかしら」
箸を置いて、縁側へと栖川さんが向かう。
「警察と大工が来たって~!」
縁側にいるからだろうか、栖川さんが向かっているのだが、縁側から大声で報告する声はダイニングまでしかりと届いていた。
「ああ、ああ、そうなのね~。橋ができたら、ゴミ出しをお願いしようかしら~」
「ゴミ出しなんて明日にした方がええよ~!どうせ、板一枚の怖い橋なんだからさ~」
「まぁまぁ、大工の人も人が渡れる橋を作ってくれるんだから」
なすを先に食べることにした。砂橋は味が気に入ったらしく、ご飯に大根おろしと一口サイズの鶏むね肉を置いて、口の中に運んでいた。
「……橋が作られるのなら、他の人達も見に来るよね?」
砂橋が口の中のものを嬉しそうに味わって飲み込んだ後、唐突にそう切り出す。
「ええ、来ると思うわ。東と西に移動する予定がなくても、一応、あの橋はライフラインだからね。今はお盆だから買いだめもしているけど、これがお盆じゃなかったら、今よりもっと困ってたかも」
西の村人は、買い物に自由に行けるが、東の人間は西に行かないと買い物に行くことができない。
何故、村を作った時に川の西側に完全に村を移動させようとしなかったのだろうか。西側に村を移動させていれば、橋などを作る必要もなかっただろうに。
「それなら、橋の近くの現場を確認することができるよね」
「……もしかして、人が大勢いるのだから、俺たちがいても怪しまれないとでも思ってるのか」
「その通り~」
砂橋は嬉しそうになすを箸で挟んだ。
「樹さんと杏里さんはどうするの?」
「どうしようかしら……」
夜中は俺と砂橋に付き合わせて、村人の疑いをさらに深める結果になってしまった。また突き合わせるのは忍びない。
「砂橋の我儘だから無視してくれ。栖川さんの家の手伝いもあるしな」
そういえば、今回の依頼は栖川さんの家の手伝いだった。
俺は砂橋を睨む。
まさか、依頼を放り出して事件に首を突っ込むつもりじゃないだろうなと考えながら眉間に皺を寄せると砂橋はなすを口に入れて、肩を竦めた。
「はいはい。分かってるよ。依頼はちゃんとするって」
「分かってるならいい」
杏里と樹も俺たちのやり取りにほっと胸を撫で下ろしていた。これ以上二人を砂橋の我儘に巻き込むわけにはいかない。
縁側で世間話をしてきた栖川さんが戻ってきて、先に昼食を済ませた俺たちは食器を片付ける。
「栖川さん、荷台がもういっぱいなので、川の近くまで一度運んでいってもいいですか?」
砂橋が昼食を半分ほど食べた栖川さんに尋ねる。
「ええ、いいわよ。それなら、荷台はそのまま川の近くに置いておいてちょうだい。他の荷台なら、帰ってくる途中で川村さんに言えば貸してくれるはずよ。今は使ってないだろうから」
「分かりました。じゃあ、他のゴミ袋と一緒に運んでおきますね」
俺は思わず目を丸くした。
砂橋と目が合い、砂橋は目を細める。
悪戯を考えている時のクソガキのような笑顔。
こいつは、ゴミ袋を川の近くに移動させるのを口実に現場を見に行きたいのだ。
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