第321話 栖川村祟り事件25


「この歳になって、正座一時間で反省って……今までの人生でもしたことなかったけど……」


 砂橋が眠い目をこすりながら、あくびを吐いた。


 昨夜、いや、今日の午前一時頃、栖川さんの家へと戻ってきた俺たちは、勝手に夜中に家を抜け出したことを栖川さんに怒られた。


 栖川さんは大きな声をあげたわけではないが、懇々と危ないのにどうして夜中に家を抜け出してもいいと思ったのか、危ないことを発見して何故他の大人に任せなかったのか、と諭された。


 他の大人に任せるべきだの下りに関しては「俺たちももう大人だと思うのだが」と反論したくなったが、正座をしている足がしびれて、それどころではなかった。


「犯人だと思うか?」

「橋を燃やしたの?今のところなんとも言えないね」


 四人分の布団のうち、二人分の布団を畳み終わり、押し入れにつっこんだ砂橋は首を傾げた。


「分かってることがバラバラ過ぎてね。まだ、なんにも分かってない感じかな」

「そうか……」


 杏里と樹は疲れているであろう栖川さんの代わりにキッチンに立って、朝食を作っている。


 全員が全員、寝不足の状態だろう。


 やっと布団に入って、寝つけたのは午前三時。今は午前八時だ。すぐに寝ていたとして、五時間しか寝ていない。


 せめて八時間は睡眠の時間が欲しい。最低でも六時間。


「眠いねぇ……ていうか、西の村の人が山道を運転して、警察と大工さんを呼んでくれるんでしょう?眠いのに山道運転しても大丈夫なの?」


「さすがに眠かったら、もう少し眠ってから昼頃に出発するだろう」


 自宅に帰ったら、とりあえず、睡眠をとりたい。この村に来る前に担当編集に数日連絡はとれないと言っているが、急ぎの連絡はないだろうか。


 いや、あちらもお盆だろうから、よほどのことでなければ、連絡など来ないだろう。


「……そういえば、お盆だったな」


「そうだね。物置の整理は終わったけど、あとは庭の荷台に乗せたゴミを捨てに行かないとね。まぁ、橋がないから今は無理だけど」


「砂橋は、墓参りには行かないのか?」


 布団を持ち上げて押し入れに入れながら、質問する。砂橋の顔は見えない。

 顔が見えていたら、こんな質問はしていなかっただろう。


「僕が行くと思う?」


 いつも通りの返答。


「行けって言いたいの?」

「いや……ただ気になっただけだ」

「あっそう」


 畳の上を歩いた振動が軽く足裏から伝わってくる。振り返ると、砂橋は布団をあと一式和室に残して、ダイニングの方へと消えていた。

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