第316話 栖川村祟り事件20
村人たちが誰にしよう、いや、そいつはダメだ、そもそも夜の運転なんて事故が起こると言い出して、話し合いが長くなると砂橋は一つあくびをして、開いたままの襖から玄関前の廊下へと行き、キッチンの方へと向かった。
俺もその後に続いていく。
「喉が渇いた」
砂橋は後をついてくる俺に気づいてそう言う。「あと小腹もすいた」と付け加える。
キッチンには先客がいた。
「栖川さん?」
「みんな、お喋りしているから喉が渇くでしょう?」
栖川さんは冷蔵庫の中からお茶を取り出して、テーブルの上に置いていた。それとは別に大きなやかんが炎によって熱されている。人数分のお茶を作るためにまずはお湯を沸かしているのだろう。
「手伝いますよ」
「あら、弾正さんありがとう」
俺は用意されたお盆の上に紙コップを並べていく。これ全部にわざわざお茶を注ぐよりも飲みたい人は受け取りに来いと言う方が楽なのではないかとも思ったが、足腰が悪い者もいるだろうし、ひしめき合った部屋の中を自由に歩き回られたら、誰かが絶対お茶をこぼしてしまうだろう。
「砂橋さんは何か食べ物を食べに来たのかしら?」
「よく分かりましたね。なにか口に入れるものがなければ我慢します」
「きゅうりの漬け物があるから出してあげるわね」
俺が一つずつ紙コップにお茶を注いでいく中、砂橋は冷蔵庫から出された浅漬けのきゅうりが入った小皿を受け取り、テーブルに座った。
よく死体を直視して、写真まで撮っておきながら、すぐに食事ができるものだ。俺にはできそうにない。
「栖川さん、夜中に車で警察を呼びに行くのは危険なんですか?」
「そうねぇ。ほら、あなたたちも知ってるでしょう?この村は近くの村まですごく遠いの」
それはこの村に来るまでの道を見たら分かる。何時間もかかる道のりだ。行きも帰りも容易ではないだろう。
「しかも、くねくねとした山道を灯りもない真っ暗な中行くのはね……。夜は、動物も道路を横切るから事故が何回か起こっているのよ」
それが村人たちがすぐに警察を呼びに行かない理由か。
「それなら、麓に人を呼びに行くのは明日になってからですね」
「そうなりそうねぇ。誰が呼びに行くのかもなかなか決まらないと思うから、二人は気長に待ちなさい。あんまり、みんなの話し合いの時に顔を出さない方がいいわよ」
お盆にのせたお茶を運ぼうと思っていた俺は目を丸くした。
顔を出さない方がいいとはどういうことだろうか。
「弾正、よく考えてみてよ。村で殺人事件があったら、一番最初に疑われるのは僕たちよそ者なんだよ」
「……それもそうか」
栖川さんが廊下から杏里のことを呼び、お茶を一緒に運んでくれるように頼むと、栖川さんと杏里の二人はキッチンから消えた。
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