第315話 栖川村祟り事件19


「お待たせしました」


 玄関の方から暁之佑さんと倫太朗さんがやってきた。すると、今まで好き勝手に喋っていた村人たちが一斉に静かになる。


 改めて、和室の中を見てみると、一番多いのは暁之佑さんや倫太朗さんよりも歳をとっているおばあさんとおじいさん達で、同じ歳程の人間が五、六人。杏里と樹ほどの歳の人間は二人の他にはいない。


 村の平均年齢を出したら、きっととてつもなく高いのだろう。


「ここに来るまで他の民家を確認してきましたが、ここに集まっていない人はいませんでした」


 倫太朗さんの言葉に七十代ほどのおばあさんが声をあげた。


「それじゃあ、お焚き上げの中にあった死体は誰のなんじゃ?」


 倫太朗さんと暁之佑さんがお互いの顔を見る。少しして、倫太朗さんが口を開いた。


「尾川哲郎くんだと思います」


 静まっていた和室がその情報を与えられた瞬間、急に沸騰したように人の声で溢れた。


 見たところ、この村には駐在警官などもいないようだ。


「皆さん、落ち着いてください」


 暁之佑さんの声に少しだけ声量は収まったが、声が消えるわけではなかった。


「とりあえず、警察に通報すればいいんじゃないのか?」

「無理だよ」


 俺の呟いた声を遮ったのは、俺の隣でまたスマホをいじり始めていた砂橋だった。


 村人たちの視線は倫太朗さんと暁之佑さんに注がれるが、俺が砂橋を見ていると、砂橋は手元のスマホの画面をひらひらと見せてきた。


「ここ、電波ないし。使うなら固定電話だね」

「え」


 俺は慌てて、自分のポケットからスマホを取り出した。気づいていなかったが、本当に電波が届いていない。元から届いていなかったのだろう。今日は一切スマホを触ってなかったから気づかなかったのはしょうがない。


「最初っからここは電波通じないよ。固定電話ならできるかもと思ったから、そこの廊下にある電話でかければ?」


 どうやら、俺たちが電話の話をしていたのと同時進行であちらも通報しようと話していたらしく、倫太朗さんが廊下の黒電話へと飛びついて、ダイヤルを回す。しばらくして、彼は首を横に振った。


「電話が通じなくなってる」


 ふと砂橋が首を傾げたが、それも一瞬の動作だった。


「警察に連絡するのなら、大丈夫な固定電話を探すか。それとも、誰か、麓の人に連絡をするかになるな」

「麓に人を送ろう」


 暁之佑さんの言葉に村人たちはそうだなとそれぞれ頷いた。


 しかし、誰が麓に行くのかというのはまた別の話だ。

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