第313話 栖川村祟り事件17


 砂橋が十枚ほど写真を撮り終えるのと同時に樹が西の村人たちと杏里を連れてきた。


 村人たちはまっすぐ栖川さんの家へと向かい、杏里と杏里の隣を歩いていた神社の礼装を着ている男性はこちらへと近づいてきた。栖川さんに倫太朗くんと呼ばれた樹の父親と同じぐらいの背丈だが、こちらの人の方が顔に皺が多く、表情から苦労が伺える。


「倫太朗さん、死体というのは……」


「見てくれ、暁之佑さん。お焚き上げの中から出てきたんだ。今は栖川さんの家に全員集めて、いない人間が誰なのかを確かめようと思ってな……」


 杏里も父親の暁之佑さんについて、お焚き上げに近づこうとするのを樹が手を掴んで首を横に振る。


「これは……」


 暁之佑さんは袖で口元を覆った。


「ひどいですね……」


 砂橋はいつの間にかお焚き上げから離れて、俺の隣でスマホの写真覧を眺めていた。


「彼らは……」


 ふと、暁之佑さんの視線が死体からこちらに移る。


「ああ、お父さん、この二人だよ。栖川さんのお手伝いさん!」

「俺が弾正。こっちが砂橋です」


 俺が挨拶をすると「ああ、なるほど、君たちが……」と暁之佑さんは頷いた。死体発見の現場に村人ではない人間がいれば、誰だって気になるだろう。


「それじゃあ、栖川さんのところに行きましょうか。倫太朗さん、死体は……」

「現場保存のため、むやみに触らない方がいいだろう」


 死体を動かさないのなら、俺たちが口を出すことはない。警察を呼んだ時に現場を荒らした後だと、解決する事件が複雑になってしまう可能性がある。


「西の村人は全員集めて、栖川さん家に向かってもらったから、あと栖川さんの家にいないのは僕たちだけだ。死体が荒らされる心配もないと思う」


 暁之佑さんの言葉に倫太朗さんは「そうだな」と頷くと俺たちの方へと目を向けた。


「もう写真はいいだろう?」

「はい、もう大丈夫です」


 スマホの写真を確認し終えた砂橋はスマホをポケットの中にしまって、そう答える。


「それなら栖川さんの家に行ってくれ」


 村人でもない人間が死体の写真を撮っていたら、警戒するのも無理はない。俺たちを最後にしたら、死体になんらかの細工をするかもしれないと思われているのだろう。


「杏里も樹も先に行ってくれ。残った村人がいないかどうか民家を確認しながら向かうから」


 倫太朗さんの言葉に杏里と樹は俺たちの傍にくると「行きましょう」と誘ってきた。杏里と樹に前を歩かせていると、月明りで照らされた土の道を歩きながら、砂橋はため息を吐きながら呟いた。


「やっぱり、弾正、厄除け必要だよ」


 俺もそう思う。

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