第311話 栖川村祟り事件15
「もうすぐ順番よ」
栖川さんに言われて、列が思いのほか進んでいることに気づいた。
「私が終わって、横にはけたら前に進んで投げるのよ」
列の最後の方だったため、他の村人の動作も眺めていた。今更丁寧に説明をされなくても分かっているのだが。
栖川さんは焚き火台の前へと進むと持参していた木の札を炎の中に投げ込んだ。
十秒ほど、手を合わせる。
きっと心の中であの炎の中で消えていく木の札に礼を言っているのだろう。
「さぁ、どうぞ」
栖川さんが振り返り、俺たちに進むように促して、横へとはけていった。三歩ほど前に出ると砂橋がさっと木の札を炎の中に投げ込む。
俺も投げ込もうと木の札をしっかりと手の中に持ち直した時。
「ああ、なんか匂うと思ったんだよね」
砂橋が意味ありげなことを言った。
構わず、俺が投げた木の札が炎の中に落ちた。砂橋は手を合わせない。
しかし、俺は手を合わせた。瞼を落とすと先ほど砂橋が言っていた匂いの存在が確かに感じ取れるようになった。
「人の燃える匂い」
バチバチと火花が鋭くはじける音に目を開くと、焚き火台の土台として組まれていた丸太がずれて、焚き火台が傾いた。
「砂橋!」
俺は砂橋の手を引いて、すぐに焚き火台から跳び退る。
人の悲鳴と共に聞こえる焚き火台が崩れる音。そして、すぐに聞こえる「落ち着いて!」の声。樹の声だった。
火を使う行事だから事前に近くに用意していたのだろう。消火器を持った樹が俺と砂橋の前に出て、消火剤が噴射される。しばらくして炎は泡のような消火剤にまみれて消えていた。
砂橋が俺の手を振り払って、スマホのライトをつけて、消火が終わったばかりの焚き火台に近づく。
「うわぁ。あ、樹さん、見ない方がいいよ。……もう遅いけど」
樹さんが砂橋の隣で腰を抜かしたようにその場でしりもちをついていた。俺は砂橋が照らしている部分を極力視界から外そうと、砂橋の顔を見ながら尋ねた。
「砂橋、何が……」
「人の丸焦げ死体だよ」
砂橋は隠すつもりは一切なく、そう言い切った。そして、俺を振り返る。いつもの意地の悪い笑みを浮かべていた。
「僕らは人を焼いて、木の札という燃料を皆で追加していってたんだよ」
その言葉が、焚き火台から離れている他の村人に聞こえていなくてよかったと俺は的外れなことを考えていた。
そして、聞こえる場所にいたはずの樹は口を抑えて、必死に吐き気を堪えているらしく、砂橋の言葉を聞く余裕はなかったらしい。
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