第309話 栖川村祟り事件13
「栖川さん、弾正さん、砂橋さん、お待ちしてました!」
もうすでに日も落ちているが月が地面を照らしていて、暗くはない。一応、スマホのライトで地面を照らしつつ、栖川さんの隣を歩いていると、前の方から樹の声がした。
樹は神社の礼装に身を包んでいて、手には二つほど手の平大の薄い木の板を持っていた。
「はい、これ。弾正さんから二人は札やお守りを持っていないって聞いたから、俺と杏里の代わりに入れてもらおうって話したんだ」
なるほど。俺たちにも参加してほしいと二人で考えたのか。それならば、この木の札を受け取らない選択肢はない。
「ありがとう、樹」
俺が砂橋の分も含めて、二枚の札を受け取ると「それじゃあ!」と樹は神社の敷地の中へと小走りで帰っていった。
「これで参加できるな」
「弾正、二つとも投げ込んでも……まぁ、いいや。もらうよ」
砂橋は面倒そうに俺の持つ札へと手を差し出してきた。
思わず俺は目を見開いた。
こいつはこのようなことには関わらない性格だったはずだが、いったい今回はどうしたというのだ。
砂橋は俺の差し出した木の札を受け取った。
そういえば、今回は砂橋が普段やりそうもないことをしている。
墓参りをしたのもそうだが、玄関横に飾ってある精霊馬もなすの方は砂橋が作ったと栖川さんが言っていた。
俺は栖川さんの横顔を見る。
彼女は木の札を受け取った砂橋を満足気に見ている。
そして、合点がいった。
なるほど、砂橋が苦手としている手合いだったか。
「火は二十一時ちょうどにつけるから、祝詞をあげて、火が充分燃えあがったら並んで一組ずつ札をいれるのよ」
「一組ずつ?」
「家族でも恋人でも友達でも、仲のいい人でも。砂橋さんと弾正さんは二人で入れなさいね。私が先に入れて見せるから」
「お願いします」
砂橋も特に拒否はしなかった。どうやら、本当に栖川さんを前にして大人しく言う事を聞いているみたいだ。
このような砂橋も珍しくて、俺は思わず笑いそうになり、笑い声だけは漏らさないように頑張った。
「笑い声、漏れてるんだけど」
砂橋に脇腹を殴られた。
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