第308話 栖川村祟り事件12
「他の村人たちも心の中ではもうしきたりはいいんじゃないかって思っているからこそ、杏里ちゃんと樹くんが仲良くしているのを見守っているのかもしれないわね。……むしろ、ちょっかいをかけているのは二人と歳の近い厄介な子よ」
「厄介な子?」
「というか、この村に二人と同じくらいの歳の人がいたんだ?」
今までしきたりを守ってきた老人たちが、杏里さんと樹さんのことを黙っているのであれば、しきたりもほとんど機能しないも同然だ。
しかし、まだ障害があるというのだろうか。
「樹くんの従兄弟の尾川(おがわ)哲郎(てつろう)って子がいるのよ」
歳が近いということはもしかしてだが。
「哲郎くんが二人にちょっかいをかけるのよ。もしかしたら、彼は杏里ちゃんのことが好きかもしれないけど……」
「けど?」
「哲郎くんは一度都会に出て、借金をこさえて帰ってきた子なの」
「うわぁ……」
これは同じ村に住んでいる人間でも関わりたくないような不良物件だ。詳細を聞かなくても分かる。絶対に不良物件だ。
「勤めていた会社は何でやめたんだったかしら、そう、せは……せく……」
「セクハラでは?」
「ああ、そうそう。セクハラよ」
不良物件な上に事故物件。
「それに、バツ一らしいわ」
不良物件な上に事故物件、そして、死体の染みが完全に綺麗にされないまま引き渡されてしまった物件のようだ。
「最悪じゃん……」
「昔から粗暴な子でね……。杏里ちゃんは特に三歳上の哲郎くんのことを毛嫌いしていたわ。虫を投げつけられて以来、大嫌いになったって」
もしかして、好きな子にはちょっかいをかけるタイプの人間か?
それをやっても好感を持ってもらえるのは漫画の中の世界だけだ。誰が自分に嫌がらせをしてくる人間を好きになるのだ。そんなのは、ドMだけだ。
「本当は杏里ちゃんと樹くんが結婚できたら、哲郎くんもちょっかいをかけるのもやめるんだろうけど、しきたりがあるから結婚できないと鷹をくくっているのよ」
「いや、きっと結婚しててもそういう輩はちょっかいかけてくると思うよ」
弾正を呼び出すほどでもない、むしろ、いると邪魔な浮気調査や嫌がらせ調査の依頼などではよくそういう輩はいる。
正論で諭したところで、常識を説いたところで、ああいう輩はダメなのだ。言葉が通じないから。
「とにかく、哲郎くんには困ったものだわ。家の農業も手伝わないし」
「じゃあ、今何やってるの?」
「なにも……」
セクハラで会社を辞め、借金持ち、バツ一、そして、ニート。最悪の物件だ。僕だったら、絶対近づきもしない。
「お焚き上げの炎で前みたいに花火をしたりしないといいけど……今から不安になってきたわ」
「今からでもお焚き上げ、行きたくないんだけど」
弾正に耳打ちすると、諦めろと首を横に振られた。
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