第306話 栖川村祟り事件10
栖川さんはその後精霊馬を飾りに行く、僕は杏里さん一人に任せていた掃除を再開することにした。
「お待たせ、杏里さん」
「あ、砂橋さん、見てみて。この巻物、すごく古そうじゃない?」
縁側に戻ると杏里さんが巻物を開いて見せてきた。やはり、時がたっているからか、年季が入っていて、表面がとても乾燥している。乱暴に扱ってしまったら、巻物が簡単に粉々になってしまうだろう。
「この巻物は?」
「樹ちゃんが見つけたのよ。物置小屋の奥から出てきたんだって」
色はだいぶ薄くなっていたが内容はなんとなくわかる。
絵には人々や異形の姿の鬼が多数描かれていて、人々がその異形達に人型の何かを捧げているところだった。
「……栖川さんの話、本当だったんだ」
僕の呟きに杏里が「ああ!」と合点がいったように頷いた。
「栖川村の鬼伝説の話でしょう?そっか。これ、その話の巻物なんだね」
異形の物らしき物体に人型の何かを捧げている図。
よく見てみると、捧げられている人型は何かの台にのせられていて、ぐったりとしている。その顔らしき部分は他に書かれている人間よりも色が黒い。死んでいるということだろうか。
「そんなに有名なんだ。鬼の伝説」
「私やお父さんたちの世代は全く信じてないんだけどね。それより上の歳の人達はわりと信じてるイメージがあるよ」
「ふーん」
本当にこの鬼の伝説を信じている人間がいるのか。
弾正はこういう民俗学的な話も好きだろうな。歴史とかも好きだから歴史小説も書いているんだろうし。鬼などの妖怪にも興味があるのかもしれない。
「ほら、杏里さん、綺麗にするものたまってるよ」
「あ、ほんとだ!早く片付けよう!」
壊れている物などはその都度、お茶を運んできてくれていたりする栖川さんに聞いて、ゴミ袋に詰めたり、粗大ごみになりそうなものはそのまま物置小屋の前の荷台の上にのせるという作業を黙々とこなしていた。
延々とその作業を続けていると唐突に「これで終わり!」という樹さんの声が物置小屋の方からした。彼が手に持っているのは漆塗りの箱だった。
樹さんの後ろで弾正は大きく息を吐いて、物置小屋の扉をしめると軍手を外して、マスクをとった。
これで後に残っているのは縁側に並んでいる物を綺麗にしてしまうだけの作業になる。
「お疲れ様。杏里ちゃん、樹くん。そろそろ神社の方に帰りなさい」
「そうですね。お焚き上げの前に一回風呂に入って着替えようと思います」
すっかり汗が染みこんだシャツの裾をぱたぱたとはたいて、樹さんは涼しい空気を服の中に入れる。
「弾正さんもお風呂を沸かしましょうか?」
「いえ、俺は作業が全部終わったらお湯をいただきます」
弾正は汚れた軍手をビニールシートの端に置き、マスクをゴミ袋の中に入れると縁側にあがってきた。
「私も帰らないと。栖川さん、最後まで付き合えなくてごめんなさい!」
「いいのよ、杏里ちゃん。手伝ってくれただけでも嬉しいんだから。お焚き上げのお手伝い、頑張ってちょうだいね」
「うん!」
杏里さんと樹さんは軽くこちらに手を振ると、二人並んで夕焼けの下を歩いていった。
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