第277話 緋色の部屋7
炊き込みご飯を食べ終わり、二人分の茶碗とお椀と箸を回収してキッチンへと向かうと砂橋は早速またゲーム機を起動していた。その様子は珍しくもなかったが、俺はため息を吐いて、皿洗いを始めた。
そういえば、明日になれば、砂橋が先生と呼ぶ人物に会うことになるのだ。
「砂橋、湯浅先生とやらは本当に危険な人物ではないんだな?」
「うん、大丈夫だよ。炎とかは好きだけど、法に触れたことはないし、人を燃やすこともしたことはない。むしろ、出来ない小心者の先生だから」
「それで危険人物ではないと信じる方が難しいと思うが」
法には触れたことがない人間でも、危ない人間はたくさんいる。その湯浅先生もその類の人間かもしれない。
「まぁまぁ、湯浅先生はいい人だと思うよ。扱いやすいし」
お前にとっていい人というのは、扱いやすいかそうでないかの基準なのか。
それなら、俺は砂橋にとっては、とってもいい人に位置づけられているのだろう。もしかしたら、世界一いい人かもしれない。それは自惚れすぎかと考えてから、いややっぱり、自惚れなどではないなと俺は遠い目をした。
ゲーム画面でアンドロイドの右顔面が吹っ飛んでいた。
それよりも、俺が大学時代以前の砂橋の知り合いに会うのはこれが初めてだ。
大学生以前。しかも、高校生の頃の砂橋。
気にならないといえば、嘘になる。
「あ、そうだ。湯浅先生に会った時の注意事項が一つ」
「なんだ」
「過去のことは聞かないこと」
「過去って、湯浅先生についての過去か?」
その注意事項であれば、砂橋の過去は湯浅先生の口から聞けることになる。
しかし、砂橋はメニュー画面を開いて、ゲームを一時停止するとキッチンにいる俺を振り返った。
「全ての過去について。湯浅先生だけではなく、全ての過去のことは聞かないこと」
「……分かった」
要するに、自分のことを湯浅先生に聞くなということ。
砂橋が探るなと言うのであれば、俺は湯浅先生に過去のことを聞くことはやめておこう。
砂橋は俺の頷きに満足したのか、テレビ画面へと視線を戻して、ゲームを再開した。あまり高度な操作テクニックは必要ないらしく、砂橋は好きなように画面の中でキャラクターを動かしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます