第276話 緋色の部屋6
「本当に警察が捕まえられない。お手上げだって言うのなら気になるけどさ」
「気にされても俺が困るんだが」
砂橋はそういう面倒な事件にばかり、俺を巻き込む。
このまま連続殺人事件の犯人を警察が捕まえることができなければ、自分から首を突っ込みかねない。そして、それを止めたり、傍で見張るのは俺の役目だ。
「大丈夫だよ。巻き込まれない限りは自分から連続殺人事件に関わったりしないって」
「はぁ……」
砂橋につられて俺も一口だけ味見をしてしまったが、味噌汁も用意しなければならないと俺はキッチンへと向かい、お椀二つにあさりの味噌汁をよそうと砂橋の前と自分の前にそのお椀を置いた。
ちゃんとあさりの殻は全て外している。
「たまには和食っていいよねぇ~。ほかほかのご飯とあったかい味噌汁」
ほかほかとあったかいは同じ意味だろうと言いそうになったが、俺は味噌汁を一口飲んだ。きっとニュアンスの問題なのだと言われるに決まっているのだ。
「もしかして、連続殺人事件の捜査って熊岸警部達がやってるのかも」
結局、ニュースを消したところで話すのは殺人事件の話か。
「そうだな。今回の火事については警察に話を聞かないつもりなんだろう?」
「んー、でも、一応、話だけでも聞きたかったんだけど」
熊岸警部が連続殺人事件の捜査をしているのであれば、今回の俺達が調査する火事について話を聞くのは憚られる。犯人がまだ捕まっていないのだ。忙しいに決まっている。
「あ、それじゃあ、猫谷刑事に聞くのはどう?」
「猫谷刑事に?」
砂橋と猫谷刑事は別段仲がよくなかったはずだ。いや、仲が良くないというよりは、猫谷刑事が一方的に砂橋のことを毛嫌いしているという方が正しいだろう。
「ほら、僕ら、前に猫谷刑事の弟さんに依頼されたのにお金を要求しなかったでしょう?それを借りにしてるんだけどさ」
俺は思わず眉間に皺を寄せた。
猫谷刑事の弟に依頼料をとらなかったのは本当のことだ。しかし、その代わりに砂橋は依頼に関わった来島にとある条件を出した。それは、ゲーム会社に勤める彼にこれからずっとゲームのオススメをしてくれというものだ。
お金を要求しなかったのは砂橋の気まぐれであり、なおかつ猫谷刑事の弟ではなくとも依頼の対価は要求している。それなのに、猫谷刑事への借りにしてしまうとは。
いつも通り、性格が悪い。
「僕に対する借りを返してって言ったら忙しくても猫谷刑事なら情報をくれるでしょ」
「それもそうだが……」
砂橋のことを嫌っている猫谷刑事のことだ。それぐらいはするだろう。
「そうだ。弾正、聞いておきたいことがあったんだけどさ」
「なんだ」
「恋人が事故で死んだら、その事故について詳しい話を聞きたいと思う?お金を出してまで」
俺は思わず顎に手を当てた。
こんな質問はあまりない。それに俺には恋人などもいない。それなら、俺は想像で話すしかないが。
「そうだな……。もし、その恋人の死に何か引っかかるものがあるのならば、お金を払ってでも真相を知りたいと思うだろうな」
真面目な質問を珍しくしてきたと思ったが、砂橋はすぐに興味をなくしたのか「ふーん」と言いながら、あさりの炊き込みご飯を頬張った。
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