第265話 姿のない文通相手17
メインハウスへと向かい、様々な味のソフトクリームや五平餅などを売っている売り場の従業員に話しかけ、忘れ物をした場合どこに行けばいいのかと聞き、教えてもらった場所に三人で向かい、そこにいた従業員の人間に話しかけることにした。
「すいません、忘れ物をしたんですが……」
清水が聞くと受付の若い女性は「あれ」と声をあげた。
「お客さん、午前中も来てなかったですか?」
「あ、はい……そうですけど」
「すみませんが、大野百合子さんの持ち物らしき落とし物はないので……」
どうやら、午前中もこの若い女性が落とし物の応対をしていたらしい。
そもそも大野百合子の落とし物がないのか。
何を落としたのかも清水には分からないのだ。
ふと、砂橋が清水の隣に並んで若い女性従業員との間にあるカウンターに肘をのせた。
「ねぇ、お姉さん。僕たちが探してるの大野百合子さんの落とし物じゃなくて、今度はこのお兄さんの落とし物なんだ。清水幸雄って言うんだけど」
「清水……?」
砂橋の言葉に若い女性従業員は首を傾げたが、すぐに「ああ、清水さんですね!」と手をぽんと打った。
「清水さんの字って幸せって書いて雄って書きますか?」
「あ、はい、そうです」
清水は困惑しながらも頷いた。
若い女性従業員はカウンターの向こうで身をかがめて、俺達の視界から消えたかと思うとすぐに手に小さな封筒を持って、姿を現した。
名刺ほどの大きさしかない白い封筒には、黒く細い文字で「清水幸雄」と書かれていた。
「一応、本人確認できるものを見せてもらってもいいですか?」
「あ、運転免許証でいいですか?」
「はい!大丈夫です!」
清水が財布の中から運転免許証を取り出して、若い女性従業員に見せると彼女は笑顔で「では、こちらお返しします」と小さな封筒を清水に手渡した。
清水は不思議そうに手の中の封筒に視線を落としていた。
メインハウスの一階にあるお土産売り場に砂橋が行きたいと言い出したので、俺と清水はお土産売り場に向かう砂橋の後ろを歩きながら、小さな封筒の中身を確認することにした。
「……これは?」
「どうしたんだ?」
封筒の中に入っていたんだから、手紙ではないんだろうか。
歩きながらだと清水の手元がよく見えなかったが、彼の手には名刺ほどの大きさのカードがあった。
「えっと、読み上げるとですね……。二番目は、三十五……点、六七六七六四……スラッシュ、百三十九、点、七五二一三七」
「……すまない。たぶん、それは口頭で説明されても分からない」
清水も口で説明し始めて無理だと悟ったらしく、俺に名刺程の大きさの紙を渡してきた。
紙というよりはしっかりとした画用紙だった。
手触りからして、手紙というよりは少し質のいい名刺のように感じた。
そこには印刷された黒い文字があった。
『二番目は、35.676764 / 139.752137
三番目は、35.658610 / 139.745600
最後は私がいるところ、 』
これは分からない。
数字の意味も分からないどころか、肝心な部分が書かれていない。この数字が場所を表していて、そして、最後には大野百合子の居場所を示す数字が書かれているはずなのだが、そこが空白になっている。
俺が頭を悩ませて考えるよりも砂橋のようが何か分かるだろう。世の中には三人寄れば文殊の知恵ということわざもあるのだから。
「砂橋」
「なにこれ、名刺?」
呼ばれて振り返った砂橋に数字が書かれた紙を渡すと、それを受け取って、砂橋は首を傾げた。
少しして、砂橋は数字から顔をあげた。
「あー、うん。なるほどね」
「何か分かったのか?」
「今何時?」
砂橋は俺の質問には答えずに、逆に質問をしてきた。左手首にある腕時計を見るともう数分で一時半になる。俺は腕時計を砂橋にも見せた。
砂橋は顎に手を当てるとやがて「うん」と頷いた。
「お土産は後にしよう」
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