第264話 姿のない文通相手16
「馬に乗るのって結構視線が高くなるんだね。びっくりしたよ。ていうか、めちゃくちゃ揺れる」
今日が平日でよかった。これが休日で人が多かったら、きっと砂橋は馬に乗らなかっただろう。
「ところで僕、ちゃんと手紙の内容読んでないんだけど、読ませてもらってもいい?」
引き馬体験をしている人間も今はいないため、砂橋が俺達の座っているベンチに俺たちと同じように腰かけると清水は手紙を差し出した。
「あ、これです」
清水は言われるがまま、白い封筒を取り出して、砂橋に渡した。
きっと、白い封筒が便箋の大きさに合わないほどの大きさなのは、正方形の折り紙に余計な折り目をつけたくなかったからだろう。
砂橋は封筒の中から二枚の便箋を取り出して、文字に目を滑らせた。
「忘れ物ってなに?」
「さぁ……それは分からないです。忘れ物がどこにあるのかも、何が忘れ物なのかも僕は知らないので」
清水は首を横に振った。しかし、すぐに思い出したように「あ」と声を出す。
「でも、最初にチケットの受付の人に聞いたんです。忘れ物をしていないかって、でも、百合子さんの忘れ物はなかったみたいで……」
「大野百合子さんの忘れ物がないかどうか聞いたの?」
「はい」
本当に大野百合子の忘れ物がこの牧野の村にあり、従業員が保管していたとして、それを家族でもない赤の他人の従業員が素直に渡すことがありえるだろうか。
俺が従業員なら怪しくて渡さない。
しかし、大野百合子は忘れ物を取りに行ってほしいと言っている。
「じゃあ、忘れ物センターに行こうよ。どこか知らないけど。本部受付とかあるの?」
俺は牧野の村の地図を開いた。どこが忘れ物を保管している場所だろうか。
忘れ物を保管している場所があるとしたら、放送などができたりするような場所だろう。
「このメインハウスじゃないか?」
地図上でバーベキューハウスの隣に位置しているメインハウスを指さした。
「ああ、ここね。大きな建物だったし、もしかしたらあるかもね。従業員に聞けば分かるかもね」
「ここなら、牧野の村に来た時に中を通りましたよ。お土産売り場がとっても広かったです」
「それなら、笹川くんと笹川くんのお姉さんへのお土産も選んじゃおっか」
俺が地図を折り畳むと、砂橋は封筒に便箋を戻し、清水に返していた。
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