第261話 姿のない文通相手13


 砂橋のおかげで折り紙は、送り主の意思通りに折ることができたと思うのだが、だからと言って清水が会いたいと思っている大野百合子への手がかりが見つかったわけではない。


 砂橋が折り紙を折り終わった後、俺は清水にマークに見覚えはないか、折り紙に関するエピソードなどはないかと聞いてみたが、清水は何一つ思い至らない様子だった。


「それにしても、どうして手紙が送られてきたのがこの季節だったんだろうね」


 バーベキューハウスから出て、大きく伸びをする砂橋の視線の先には少し遠くに広がっているラベンダー畑があった。


「たぶん、この景色の写真を撮ってほしかったんだと思います」


 いつの間にか俺の隣には一眼レフカメラを遠くのラベンダー畑に向けて構えている清水がいた。


「僕は毎回彼女に写真を送ってますから、たまにいつか行くことがあったら写真を撮ってきてほしいと写真を撮る場所のリクエストをもらったりしますし」


 写真を撮る場所のリクエストまでするということは、大野百合子は少なくとも清水の撮る写真が好きだったのだろう。


 そうでなければ、リクエストなどしないはずだ。


 好きと言葉で述べることは心に思っていなくともできるが、これを見たいと口で表すには好きという気持ちや好奇心がなくてはできない。


「ふーん。ここの景色だけ?動物とかも撮りに行かないの?」


「確かに。撮りに行きましょう」


「おい、いいのか?」


 目的は大野百合子に会うことであるはずなのだが、清水はそれでいいのだろうか。


 清水は俺の言いたいことが分かったようで、困ったように笑った。


「やっぱり、彼女には僕の撮った写真を見てほしいですし……それに、手詰まりですよね?」


 そう言われると何も言えない。


 折り紙は完成したが、そこから何をすればいいのか分からない。砂橋は何か解決の糸口に気づいているのかいないのかは分からないが、それを今素直に教えてくれるはずはない。


「……歩きながら考えよう」


 俺はそれ以上何も言えずに三人で牛舎へと向かうことにした。


 動物が集められているエリアは、牛舎と馬舎が同じ建物に作られており、正面から見て右手が牛、左手に馬といった感じの建物があった。


 馬は馬用の窓から首を外に出して、馬用の餌として販売されているにんじんを観光客から与えられるのを待っている。


 牛は建物の中におり、近寄れないように足元に木の柵が置かれていた。


 牛と目が合う。


 先ほど、食べたことを思い出して、なんとも言えない気分になった。じっと俺のことを見ないでくれ。


 砂橋と清水は端っこにある枠の中に入れられていた子牛を覗き込んでいた。清水は写真を撮り、砂橋は「子牛に半纏着せてるんだ。寒いの?」と独り言を呟いていた。

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