第260話 姿のない文通相手12


 砂橋は、何も書かれていない面を上にして、四つの角を折り目に沿うようにして、中心へと折り曲げた。四つの角が中心で合わさり、バラバラだった線が繋がり、真ん中に簡単な花のイラストが出来上がった。


「あ」


 折り紙の折り方が分かったらしい清水が声をあげた。


「こうやって、イラストを作ってくんだろうね。折ったりして模様や言葉を作ったりっていうのは謎解きゲームでよくある手法なんだよね。実はさっきの謎解きゲームもこんな感じだったんだけど」


 確かに、先ほどのカフェで、砂橋は謎解きゲームの紙を折り曲げたりしていた。なるほど、模様を完成させたかったらしい。この程度なら俺にもできるかもしれない。


「あ、お肉、僕も一枚欲しい」


 取り皿にたれを少し入れて、俺が育て終わったばかりの肉を一枚のせてやると砂橋はそれを箸でつまんだ。


「あ、美味しいね。さすが。さっき牛舎あったから牛も見てこればよかったね」


 むしろ、見た後でなくてよかったと思うが。


 一枚の肉を口の中に入れ終わり、咀嚼しながら、砂橋は折られて花のイラストができあがった折り紙をそのままの形で裏返した。一回り小さくなっていた正方形の折り紙の真ん中には先の尖った楕円のようなイラストがあった。


 雫のイラストだろうか。


 砂橋は先ほどと同じように折り目に沿いながら、四つの角をまた中心へと折り始めた。


 綺麗に角が中心に合わさり、今度は丸が現れた。丸の中にはバツ印が書かれている。そして、その周りには矢印が合計八つあったが、なんのことかは分からない。


 矢印は二つずつ近い場所にあり、矢印の先が反対方向に向いている。間には紙の隙間があるため、開けということだろうか。


「そういえば、この折り紙を送ってくれた人ってどんな人なの?」


 砂橋の唐突な質問に網の上にトングの先を伸ばしていた清水の動きが止まった。


 しかし、すぐに動きは再開し、彼は自分の取り皿の上に肉を避難させてから口を開いた。


「実はどんな人かは知らないんです」

「知らない?手紙のやり取りをしているのに?」


 ためらうようにゆっくりと清水は頷いた。


 そういえば、砂橋はネットでのやり取りから文通をすることになったという先ほどの清水の話を聞いていなかった。


 清水は手紙を出した大野百合子の外見も知らない。一度も会ったことはなく、連絡先も一切知らない。


「ネットのやり取りをしている時も文字のやり取りだけでしたし、手紙も文字のやり取りだけで……あ、僕は自分で撮った写真を送ったりしたんですけど。彼女から写真などをもらったことはないです」


 砂橋はまた折り紙を裏返して、先ほどと同じ作業をする。


 元々作られていた花のイラストは隠れてしまい、代わりに四角ができる。


 いや、四角の線の四つ角から申し訳程度に斜めに線が少しだけ伸びていた。


「ふーん。じゃあ、手紙を出した人が本当に女性かどうかも歳が近いかどうかも分からないんだ」


 砂橋はイラストのことについては一切触れずに小さな正方形となった折り紙をまた裏返した。


 裏には丸にバツ印があり、そのイラストの上下左右に二つずつ矢印があった。


 まるで開けと誘導している矢印に従って、砂橋は紙の隙間の指先を入れて、折り目に従い、外側へとその部分を広げていった。


 上下左右、全てを広げ終わるとそれはやっと正方形とは違う形となった。


 十字の形となった折り紙の、開いた場所に書かれていたのは途中でも見ることができた雫のマークだった。

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