第259話 姿のない文通相手11
スマホを開いて時間を確認するともうすでに十二時はまわっていた。牧野の村の謎解きゲームで園内を歩いている間に思いのほか時間が経過していたらしい。
「昼ご飯は入るか?」
飲むヨーグルトしか飲んでいない清水には聞かずにラベンダーソフトを先ほど食べていた砂橋に聞くと、砂橋は首を傾げながら、服の上から自分の腹を撫でた。
「んー、食べれそう」
それならば、どこに行くかと地図を開く。
牧野の村の中には、カレーなどが中心となったメニューがあるレストランと、屋外の屋根だけある大きな建物の下で焼肉をできる店もある。それに、がっつり料理を食べなくても、フードコードなどもある。
俺も先ほど小さなタルトを食べたが、腹がすいている中に少しの食べ物は逆効果だったようだ。
「肉を食おう」
どうせならがっつりと。
「じゃあ、僕、同じところで売ってる肉うどん頼もうかな」
「えっと、今更なんですけど、僕が一緒にご飯を食べてもいいんですか?」
本当に今更な質問をしてきた清水に俺は思わず笑った。
焼肉のスペースでは二人前の肉と野菜のお得なセットが販売されている。砂橋がうどんを頼むというのなら、俺と清水で二人前のセットを頼んだ方が得だろう。
「別に気にしてない。なぁ、砂橋」
「僕は面白ければなんでもいいよ」
ちらりと砂橋が俺の方を見た。
面白ければというのは俺が探偵だと勘違いされているこの状況のことを言っているのだろう。
誰のせいでこのような状況になっていると思っているのだ。
「それならよかったです。あ、昼ごはんは」
「折半だ」
ここでまた奢られるのも少しだけ申し訳なくなる。俺は本当の探偵ではないのだから。
たまたま、旅先で出会った人間が困っているので助けたいと思って付き合っているだけだ。対価を求めているわけではない。
何より、手紙と赤い折り紙のことは気になっていた。
バーベキューハウスへと向かい、二人前のセットと肉うどんを頼む。
先にラベンダーソフトを食べていなければ砂橋も焼肉も食べていただろうが、砂橋が頼んだ肉うどんもとてもおいしそうに見えた。
俺と清水が肉と野菜を網にのせて待っている間に砂橋は肉とうどんを口に入れて一緒くたに味わい、最終的にうどんのつゆも全部飲み干していた。
「折り紙、貸して」
「気を付けてね」
「……気を付けるよ」
清水が俺と砂橋の関係をどのように捉えているかは知らないが、どうやら彼は砂橋が俺と同じ歳の人間ではなく、もっと若い人間だと思っているらしい。背の低さのせいか、振る舞いのせいかは分からないが。砂橋もそれを特に否定しなかったため、彼は勘違いしたままだろう。
砂橋は清水からばらばらの黒い点や線が散りばめられた赤い折り紙を受け取る。
すぐに折ることはせずに裏表を何度かひっくり返して確認すると「これさっきもやったんだけど」とぶつぶつ喋りながら、自分の前から空になったうどんのどんぶりを横にどけた。
線や模様が書かれているのは片面だけであり、もうその裏には何も書かれていない。矢印なども書かれているが、開かれた状態では何がなんだか分からないだろう。
「お肉焦げるよ」
じっと砂橋が折るのを待っていた俺と清水が砂橋の指摘により、慌てて網の上の肉をひっくり返した。
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