第258話 姿のない文通相手10


 砂橋が五匹以上の羊に囲まれ始めたので、俺も羊の柵の中に入り、砂橋が埋もれてしまう前に砂橋の手に残っていた餌の入ったプラスチックのコップを二つ取り上げた。


 俺も羊の頭突きを腰に食らうこととなった。


「もこもこしてた」

「そうか」


 突進されたり、乗りかかられていたにも関わらず、羊の柵から戻ってきた砂橋はけろりとしていた。羊との戯れはそこまで嫌ではなかったらしい。


「謎解きの報告はいいのか?」

「別にいいよ。謎は解けてるし、報告なんていつだってできるから」


 しかし、砂橋の服には羊と戯れた際についた藁や草がいくつかあったので、背中についているものだけはたいて取ってやった。


「それなら、紙を折るのを手伝ってくれないか」

「紙?ああ、あの赤い折り紙?」


 完全に自分の謎解きに集中していると思ったら、俺と清水の話も聞いていたみたいだ。


 砂橋は「うーん」と手伝うか否かを悩んでいるようだったが、やがて「いいよ」と頷いた。


「さすがに折り紙の犬も折れない人に任せたらかわいそうだよ」

「……そうだよな」


 しばらくして俺と砂橋は空になったプラスチックのコップを重ねて、羊の柵から出ることにした。


 餌がなくなっても二匹ほど餌をまだ隠し持ってないだろうかと根気強く俺と砂橋の後についてきていたが、素早く二重の柵を通り外に出ると諦めたらしく、他の羊の元へと戻っていった。


「まぁ、謎解きが足りないとは思っていたところだし、僕には体験イベントの牛の乳しぼりやパン作りや、ハーバリウム作りやポプリ作りは似合わないよね」


 謎解きも終わってしまったから暇だと言いたいのだろう。後は楽しむとしたら食事だろうが、先ほどラベンダーソフトを食べたばかりで腹はすいていないらしい。


「少しだけ付き合ってあげる」


 それだけでも充分助かる。

 俺と清水の不器用な男二人組では折り紙の謎解きは不安でしかない。

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