第255話 姿のない文通相手7
払ってくれると意固地な清水の申し出を断ることができずに意気揚々とラベンダーソフトを頼んだ砂橋に続いて俺はジャージーミルクのレアチーズタルトを頼むことにした。
レジに向かう彼を後目に俺と砂橋はテーブル席に座った。隣に座った砂橋を俺が睨みつける。
しかし、俺の視線で言いたいことはだいたい分かったらしい砂橋がくすくすと笑った。
「弾正探偵だって」
「ふざけるな。探偵はお前だろう」
たぶん、俺と砂橋が探偵事務所に帰るかという話をしていて、たまたまそれを聞いていた清水は俺と砂橋を見て、俺の方が探偵だと思ってしまったんだろう。
「見た目かなぁ。確かに、見た目なら弾正の方が探偵っぽいよね。浮気調査してそう」
「誰が浮気調査してそう、だ。俺は頼まれても浮気調査はしないぞ」
砂橋は探偵事務所に所属している探偵のため、浮気調査もしたことがあるらしいが、俺は浮気調査などに付き合わされたことはない。
しかし、俺が砂橋に付き合わされる件はたいてい面倒な事件か殺人事件などが絡んでくる。もしや、俺がいる時に限って砂橋が自身の悪運を行使しているのかと勘ぐってしまうほどに。
「まぁ、いいじゃん。封筒の中身を見れば待ち合わせの相手がどこにいるか分かるんでしょ?付き合ってあげなよ。僕はその横で謎解きを解いてるからさ」
「手伝ってくれるとかはないのか」
俺がため息を吐くと、砂橋は肩をすくめた。
「どうして、僕が手伝わないといけないの?」
元々はお前が悪ノリをしたせいで巻き込まれたんだが、と思いつつも俺はそれを口には出さずに、さらに重たいため息を吐いた。
俺の隣で謎解きの冊子を読みながら、冊子に何やら書き込み始めた砂橋の邪魔をすることもできず、俺は清水の方をみた。
彼の右手には紫色のソフトクリームがあった。
「ジャージーミルクのレアチーズタルトは僕が頼んだ飲むヨーグルトと一緒に運んでくれるみたいです」
彼はそう言うと俺と砂橋の向かいの席に座った。
「はい、僕。ラベンダーソフトだよ」
「……」
思わず、謎解きの冊子に向き合っていた砂橋が目を丸くして顔をあげた様子と、全く悪気がなさそうな清水の好青年の表情と、二人の間に出来てしまった一瞬の間に俺は噴き出しそうになるのを必死にこらえて、唇の裏を噛んだ。
「……どうも」
長い沈黙の後、砂橋は差し出されたラベンダーソフトを受け取った。
「ところで、封筒の中身ですけど……弾正さん?」
「すまない。ちょっと失礼する」
俺は清水に断ってから、後ろを向いて笑いを紛らわせるように大きく咳払いをした。
これで大丈夫だろう。家に帰ったら、きっと思い出して腹が吊る寸前まで笑うだろうが。
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