第252話 姿のない文通相手4


 砂橋に連れられて謎解きゲームなどに参加することはよくあるが、謎解きゲームはだいたいが千円から二千円の間で販売されていることが多い。基本的には一人につき、一つのキットを買うことが推奨されているが、二、三人の客が一つのキットを購入していることもよくある。


 ちなみに俺と砂橋はお互い一つずつキットを買っている。金を出しているのは俺だが。


「すぐに園内を歩き回ると思ってたけど、この建物の中のミニチュアの街の探索をするなんてね」


 同じ建物の二階と一階にかけて、ミニチュアの街があり、その中にちりばめられているキーワードを探しながら謎解きをするというのが、今回の謎解きの流れだったらしい。


 木や松ぼっくりや草などを模して作られたミニチュアの人や街を見ながら、もらった冊子にキーワードを書き記していく。


「そういえば、弾正って好きな動物とかいるの?」


 俺も砂橋の後にパネルに書いてあるキーワードを書き写していると、唐突な質問が来た。


「好きな動物?」

「この園内にいる動物限定で」

「モルモット」


 俺はすぐに答えたが、なかなか砂橋から反応がなかったので不思議に思って振り返った。


 柱に手をついて、砂橋がげほげほと咳き込んでいた。どうやら、失礼にも程があるが、笑おうとしたら、気管に唾が入り込んだらしい。


「もる……モルモットって……っ!その顔でよく言うよ!」

「人の顔のことを言うな。失礼だぞ」

「一応聞いておくけど、モルモットのどこが好きなの?」


 どこが好きかと聞かれたら難しい。


 そもそも、身の回りに動物がいない。猫も犬も、他の動物でさえ、飼っていないし、飼っている友人の家に遊びに行くこともない。もちろん、野良猫や散歩中の犬に触れることもない。


 むしろ、散歩中の犬には吠えられるし、野良猫には威嚇され逃げられる。


「餌をやれば、逃げないところだ」


 砂橋は俺の答えを聞いて、その場でまた咳き込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る