第251話 姿のない文通相手3


 牧野の村のチケット売り場の前には広い駐車場が広がっていた。車が五十台は軽く停めることができるだろう。


 しかし、平日の早い時間ということもあって、俺たちの車以外は両手の指で数えられる程しか停まっていなかった。入場ゲート横では花と野菜が売られていた。どうやら、あれが朝市らしい。


 チケットはもうすでに入場開始の三十分前から売られているが、まだ開園はしていない。俺はミニトマトを買って、あらかじめ車の中に用意していたクーラーボックスの中にいれた。


「わざわざクーラーボックスにいれる必要ある?」

「夏ではないが、車の中は予想以上に暑くなるだろ」


 砂橋は朝市の端の方で売られていた竹とんぼが気になっていたようだが、結局買うことはしなかったらしい。


 開園したと同時に俺は砂橋からチケットをもらった。動物がいなかったら笹川が喜んで砂橋と来たと思うと少しだけ申し訳ない気分になった。


「まずはどこに行く?」


「僕らの他にまだあんまり人が入ってないんでしょう?だったら、さっさと謎解きをしようよ。謎解きって他にやってる人がいるとちょっと興がそがれるんだよね」


 砂橋の言い分は分かる。そういえば、数週間前ほどのこと、砂橋に呼び出されて、前に俺が誘拐された時に閉じ込められていた場所でもある愛知民族博物館「小世界町」に行くことがあった。そこではリアル謎解きゲームと呼ばれるイベントが開催されていて、砂橋も楽しげに園内を歩きながら謎解きに取り組んでいたのだが、謎解きの途中で様々な料理を食べたりしているうちに大学生と思われる七、八人ほどの団体が俺と砂橋と同じように謎解きを励みながら歩いていた。


 しかし、彼らの声は大きく、そして、人数も多いため、謎解きのために見なければいけないものでさえ、彼らのせいで確認することができないという状況が数度あったため、砂橋の顔から笑顔が一瞬で消え去ったのだ。


 その時は、砂橋にトルコアイスを買い与えて、わざとこちらの謎解きの進行を遅らせることでその集団と離れることができたのだが、結局最後の方でまたぶつかってしまい、砂橋が俺の隣で「わざと遅れてやってるんだからさっさと謎解いとけよ」と呟いていた。


 あのような空気は二度とごめんだと思いながらも、最終的にはその謎解きは園内でできる謎解きの後、もう一つ、ストーリーがあり、それは家に持ち帰って解いてもらっても大丈夫とのことだったので、俺の家に行って砂橋は謎解きを続けていた。


 最終的に「とっても楽しかった」と言っていたのが唯一の救いだ。


「やっぱり、平日の開園直後だと人がいないね」


 チケットを係員に渡して牧野の村の中に入ると周りをきょろきょろと見回した砂橋がそういった。


 係員からもらった地図を開いてみる。

 しかし、謎解きがどこで開始できるのかは書いていない。


 仕方ないなと顔をあげ、俺はたった今、チケットを切ってくれた係員に話しかけた。


「謎解きゲームはどこで」


「あ、謎解きはですね。あそこにある建物の一階の販売スペースで販売してるんですよ」


「なるほど。ありがとう」


「楽しんでくださいね」


 俺は小さく頭を下げると顔をはめて写真を撮るパネルを眺めている砂橋に追いついた。

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