第250話 姿のない文通相手2
「残念だねぇ、笹川くん。来れないなんて」
どうせなら、早くから受付の前で開催されている朝市の野菜も見ておきたいという俺の要望で早い時間から砂橋を助手席に乗せて、俺は車を運転していた。
「面白かったよ~。笹川くんが僕が好きそうだからって言いながらチケットを見せてきて、とっても悔しそうな顔で、動物嫌いなんですって唇を噛みしめてたの」
「嫌いではないと思うぞ」
笹川と砂橋のそのやり取りは少しだけ見たいと思った。
俺の言葉に砂橋は首を傾げた。
「嫌いって本人は言ってたけど?」
確かに砂橋にそう言っていたのならそうなのだろう。しかし、彼は実家の猫を恨んでいると言ったわけでも、嫌いになったと言ったわけでもない。
これは俺の推測だが、笹川は猫を恨んだわけではなく、猫の毛に塗れて爪とぎにされてしまったどうしようもない状況にただただ絶望したのだろう。
たぶん、そこに怒りはなかったと思う。
猫を飼っている愛猫家の知り合いは「人間は猫の奴隷だ」と豪語していたが、猫のやることなすことに愛猫家が怒ることはないのだろう。
「もしかしたら、一緒にいたら嫌いになるかもしれないから動物に近寄りたくないのかもしれないな」
「まぁ、笹川くんはファッションが命みたいなところがあるからね」
砂橋は助手席のポケットにいれていたカフェオレの蓋を開けた。道中のサービスエリアで砂橋はアイスカフェオレを、俺はアイスコーヒーを買った。
「現地に行ったら何を食べるつもりなんだ」
「そうだな~」
砂橋は助手席でスマホの画面に指を這わせた。
「今、ラベンダーの季節らしいんだけどさ。ラベンダーソフトっていうのが発売されてるみたいなんだ」
「ラベンダー……ソフト?」
ソフトクリームの味がラベンダーということだろうか。まったく想像ができない。確かにソフトクリームはよく奇抜な味の組み合わせが行われるが。
「それ、食べてみたい」
「確かに気になりはするが……」
結局、砂橋がソフトクリームを買うのを見たら、俺もそのラベンダーのソフトクリームを買ってしまうのだろう。
「でも、コロッケも気になるし、タルトとかも気になるってるんだよね」
「肉は食べたいところだな」
運転をしながら砂橋の話を聞く。
どうやら、牧野の村では羊や馬などの動物がいて、羊などは一緒に柵の中に入って餌を与えることができるらしい。
他にもヤギやアルパカ、牛やポニー、モルモットにウサギなど、多くの動物がいるらしい。
「謎解きゲームもあるみたいだよ。園内を歩いて謎を解くんだって」
探偵という職業をしているからやはり謎解きというものに惹かれるのだろうか。俺も謎解きゲームは嫌いではない。むしろ、好きの部類に入る。
それに、ただただ動物と戯れて、花畑を見て、美味しいものを食べているだけでは時間など有り余ってしまうだろう。謎解きは適度に楽しむための娯楽だ。
「いや~、でも、タルトも気になるんだよね」
「まだ目的地には着かないから何を食べるか今からでも考えてればいいだろ」
「焼肉とカレーだったら、お昼ご飯はどっち食べる?」
砂橋のその質問のせいで、俺も砂橋と一緒に運転中はずっと悩むこととなった。
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