第29話 アイドル危機一髪2


「ストーカー、すぐに分かると思います?」

「アイドルでしょ?ファンってどれくらいいるの?」


 砂橋さんはアイスティーに口をつけてゆっくりと飲みながら俺にそう聞いてきたので、俺は早速キーボードを叩いた。


 ライブの際にいつも借りているスタジオの最大動員数は百五十人。グループの公式SNSでチケットが完売したという話は出ていない。さらに調べてみるとファンクラブなるものが存在していた。ファンクラブに入っている人間は五十人程度。


「ファンクラブにはいるのは五十三人みたいです」

「んー。ストーカーしそうなぐらい執着するなら絶対ファンクラブには入ってると思うし、アイドルなら人間関係は幅広いと思うし……まぁ、有名アイドルじゃないだけましかな」


 アイスティーを飲み終わると砂橋さんはお茶菓子として出したカステラにフォークを刺して食べ始めた。確かに、俺も砂橋さんも知らないような知名度の低いアイドルでよかった。


「ストーカーの犯人は熱狂的なファンだと?」

「そうは限らないでしょ。だって、手紙の中の内容見た?」


 手紙の内容を思い出してみる。


『いつも見ているぞ』

『今日は駅前のコンビニで肉まんを買っていたな』

『女友達とランチに行っていたな』


 思い出したところで気持ち悪い文章だなという第一印象は変わらないが。


「ストーカーが好きだからやっているのか、嫌いだからやっているのかは分からないですね」


 その手紙に関しても事実を述べているだけで感情は分からない。でも、自分が知っているストーカーのイメージからして、こういうのは好きという感情が行き過ぎてストーカーになるという件が多い気がする。それに関しては実体験済みだからよく知っている。しかし、人が罪を犯す理由は他人には分からないだろう。


 俺は考えることをいったんやめることにした。


「誹謗中傷の方はどう?」

「調べます」


 まずはSNSで桃実のアカウントを見つけて、彼女に直接返信をしている人物を見つけた。


 しかし、内容の大半は「お疲れ様!」「今日のライブとってもよかったよ!」などの返信ばかりだ。さすがに本人からも他人からも分かりやすく攻撃するわけはないよな、と今度はそのSNS内の検索で「桃実」「フルーツフィールド」などを検索する。

 どうやら、フルーツフィールドはよくフルフィーと省略されてSNSでは呼ばれているらしい。検索する時に利用しよう。


 フルーツフィールドというアイドルグループに所属している桃実に関する投稿をいくつか見つける。やや否定的な意見もあるにはあるがそれは「桃実よりもはるかが好き」「桃実とかはるみとかと比べるとやっぱり苺果が一番歌も踊りもうまい気がするの俺だけ?」というような誹謗中傷とはあまり関係なさそうな個人的な意見ばかりだった。


「直接的な暴言などはあまりないですが……他の媒体で行われているのかもしれません」

「じゃあ、それも調査かな。関係あるかは今の段階では分からないや。住んでるアパートに監視カメラはついてないっていうから、適当にいい監視カメラを見繕ってあげろう。データがこっちに送られるやつで」

「分かりました」


 俺は「防犯」と背に書かれたファイルを取りだし、ページを捲り始めた。このファイルには、監視カメラのいい選び方やドライブレコーダーの商品ごとのできること、など様々な防犯系の豆知識が載っている。砂橋さんに言われた通り、知り合いの防犯商品を取り扱っている店のホームページを見て、商品の売れ残りを確かめる。

 砂橋さんはカステラも食べ終わり、空になった皿とコップを桃実の分までお盆に載せて給湯室へと姿を消した。

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