第14話 潮騒館殺人事件14
「寒っ」
自室へと貴鮫と愛を招き入れると思わずと言ったように貴鮫は声をあげて、愛は自分の腕をさすった。
「そりゃそうだろう。死体が腐らないように冷房をかけているんだ。温度も風量も下げないからな」
「いや、分かるが……さっさと荷物確認して出よう」
「……本当に、亡くなったんですね。こうしてみると寝ているみたいですね」
ふと、愛が膨らんでいるベッドへと目を向けた。
「膨らんでいるのは保冷剤を布団の下にいれているからだな」
顔にもバスタオルがかかっているがタオルの下からはみ出ている明るい茶色の髪は間違いなく砂橋のものだ。
「めくったら冷気が逃げるから触らないでくれ」
「頼まれたって死体なんて好き好んで見ないだろ」
そう言いながら、部屋に入って近くに置いてあった鞄へと貴鮫の手が伸びたので、俺は貴鮫の肩を掴んでそれを止めた。
「悪いが、それは俺の荷物だ。砂橋の荷物は奥にある」
「は? お前たち、一緒の部屋だったのか?嘘だろ?」
貴鮫は一度ベッドの方へと目をやり、次に俺の方を見た。
「嘘じゃない」
俺は砂橋の荷物を持ってきて、中身をテーブルの上に並べ始めた。
文房具の入っているポーチ。財布。充電器。お菓子。小説。煙草。ライター。車のキー。着替えが何着か入っている圧縮袋。
「……普通だな」
「ただの泊まりだと思っていたからだろう」
そのわりにはいつもよりも菓子の量が多いのは気のせいではないだろう。飴にクッキーにチョコ、とどれだけ食べるつもりだったのか。そういえば、ガムだけは常備していなかったな。ガムはわざわざ口から出して捨てなきゃいけないこともあるし、くちゃくちゃしたくないから、と言ってたまにしか食べていなかった。
「もしかしたら、砂橋が風呂場にいる間に犯人が何かを取っていった可能性もあるわけだ」
俺の言葉に愛が首を傾げた。
「何か、ですか?」
俺は頷く。砂橋の荷物の中に最初から何が入っていたかは俺もさすがに知らなかった。もし、元々何かの事件の資料や、犯人に関係するものが入っていたのならば、犯人にはそれを盗むことが可能だ。
「砂橋が風呂にいる間、俺と羽田は娯楽室にいたし、白田はキッチン。海女月と貴鮫は海女月の部屋に、蝦村は書斎に行った後は自室にいた。ということは、その間に誰かがこの部屋に盗みに来る可能性もあるわけだ」
「では、盗んだ物が他の人の荷物の中にあると?」
「そうかもしれない」
貴鮫はテーブルから離れて肩をすくめた。
「じゃあ、全員の持ち物検査でもするか? 暖炉もないんだ。証拠を隠滅したにしても、ごみ箱の中だろう」
そう言いながら、貴鮫は部屋のごみ箱の中を覗き込んだ。俺も一応覗き込んでみる。クッキーの袋しかなかった。ふと、目をやると愛がベッド脇に立ち、両手を合わせて、目を瞑っていた。そばに行くと「すみません」と小さな声が聞こえる。
「なにがだ?」
「今、この館の管理を任されているのは、私なのに……こんなことが起こってしまって……」
「気にするな。悪いのは、こんなことをした奴だ。お前が気にやむことじゃない」
納得したのかしてないのか分からないが、愛はこくりと頷いた。さすがに寒かったのか少し震える彼女を見て部屋を出ることにした。思った通り、部屋に比べると通路は暖かく、俺も他の二人も安堵の息を吐いた。
「とりあえず、他の奴にも話して持ち物を見てもいいか聞くぞ」
通路を出て、吹き抜けへと出ると、ちょうど一階のホールに他のメンバーが出てきたところだった。
「収穫はあったか?」
「砂橋の荷物からは事件に関係するようなものは見つからなかった。だから、他の人物の荷物も確認させてほしい」
ホールから階段をつたって、あがってきた海女月と羽田とお互いに顔を見合わせていた。少し後ろを歩いていた蝦村と白田もこちらの会話を不思議そうに聞いていた。
「別にいいだろう。見せて困るようなものもない」
海女月はそう言うや否や、今しがた俺たちが出てきた通路へと入り、入って二番目の部屋の扉を開けた。
「海女月は、隣の部屋だったんだな」
「そうらしい。今の今まで知らなかったがな。入っていいぞ」
海女月に手招かれて、ぞろぞろと部屋へと入る。カーテンは閉められておらず、水滴が窓に叩きつけている様子が分かる。
「正直、着替えと財布とケータイ以外の荷物は車の中だったんだが。あいにく、燃えてしまってな」
そう言いながら彼女はそこまで大きくない鞄から、スマホと財布。着替えが入っているらしい袋を取り出した。他にはないという意思表示か、彼女は鞄をひっくりかえした。落ちてきたのは車のキーとハンカチとポケットティッシュだった。
「こんなことなら傘でも持ってきてたらよかったな。近いから走ればいいだろうと車に置いてきてしまったよ」
「それは災難だったな」
部屋の中を見るが、他に荷物があるようにも見えない。彼女が着てきたコートもベッドの上に置いてあった。ポケットには何か入っているようには見えない。
「分かった。じゃあ、隣の部屋は……」
「私よ」
蝦村が手を少しだけ挙げて主張した。
「だいぶ散らかってるけど、それでもいいなら」
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