第13話 潮騒館殺人事件13


 蝦村と俺がホールに戻るとそこには誰もいなかった。娯楽室へと向かい、扉を開ける。全員そろっているということに俺は安堵の息をついた。もしかしたら、海女月が単独行動をして、それを羽田が止められなかったらという考えは杞憂だったようだ。


「現場の証拠隠滅は終わったか?」

「今時の警察官は殺人事件の捜査中にくだらない冗談を言うんだな」

「本当に砂橋が殺害されたかどうかも怪しいものだがな」


 俺は一応に、と撮影していたガムの写真を海女月の前に出した。他にも床の泡や、扉付近に落ちていたビニールの切れ端や、部屋などの写真も撮っておいた。手元にあったため、砂橋のスマホを使ってしまっていたが、それを指摘する人間はいなかった。


「確かに、ガスが充満しているなら窓を開けようとするが……これでは開かないだろうな」


 海女月はスマホを受け取って写真を拡大して見たりした。そして、蝦村の方へと視線を向ける。


「お互い、変な動きはしてなかったろうな?」

「ええ、してないわよ。ずっと一緒にいたし、何かを隠そうと思っても隠せないわよ」


 俺と蝦村は頷いた。お互い、何かを隠そうと思ってもあの場では不可能だっただろう。


「……私も風呂場を見ておきたいんだが? いいだろう? もう君たちが調べ終わった後だし」


 今更何かを隠されたとしても、写真には撮ってあるので気づくことができるだろう。


「どうして……砂橋さんが殺されてしまったんでしょう」


 ふと、白田が震える自分の手を握りながら、疑問を投げかけた。何故、殺されたのか。そもそもここにいる人間は全員初対面のはずだ。殺す理由などない。


 いや、砂橋に限っては、知られたくないものを知られてしまった、ということがあるだろう。他にばらされると困るようなことを知られてしまった。その可能性は多いにある。だが、いったい何を知ったら殺されるというのだ。


「何か見てはいけないものを見ていたか、もしくは知っていたか、だろう」

「そういえば、爆破前まで砂橋は蝦村と話してただろう? なんの話をしてたんだ?」


 気になったらしい羽田が口をはさむ。確か、その時は、俺と羽田が娯楽室でゲームをしていたはずだ。


「砂橋くんの関わった事件について詳細を聞いていたのよ。ほら」


 蝦村はポケットから手帳を取り出すと、とあるページを開いた。そこにはびっしりと事件の内容や砂橋から聞いたらしい事柄が書き殴られていた。急いで書いたようだが、解読はできる。ここまで砂橋が話しているのなら、二人は長い間話していたのだろう。


 途中、自室で砂橋と出会った時に確か「昔の事件の話ではなく、むしろ、ここに来ている人たちに関わりがある事件」について話していると砂橋が言っていたはずだ。


「他は何か話していなかったか?」


 俺の言葉に蝦村は「ええ」と頷いた。


「でも、それについてはさっきも話した通りよ」


 もしかして、十年前の横領事件のことか?


 蝦村はそれだけしか答えずに手帳をしまった。


「……とりあえず、海女月は風呂場か。他はどうする?」

「俺が海女月と一緒に風呂に行こう。弾正と一緒にいたが、風呂場を見たのは一瞬だったからな」


 羽田が手を挙げた。さすがに海女月も文句はないようだ。


「私はもちろん現場に行くが……一応、砂橋の持ち物でも調べておいた方がいいんじゃないか? もしかしたら、殺された理由も出てくるかもしれないぞ」

「そうだな」

「それなら俺もついていこう」


 貴鮫が名乗りをあげた。別に付き添いはいらないのだが、俺も一応は疑われているのだ。拒否はできないだろう。

 白田は羽田についていき、愛は俺と貴鮫についてきた。まさか、愛が自分からついてくるとは思わずに俺は目を丸くした。

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