第7話 潮騒館殺人事件7
「どうしたの?」
羽田が雨の中、車の確認をして、玄関へと戻ってくると、振動と音に気づいた人間が続々とホールへと集まってきた。現在、風呂に行っている貴鮫以外は全員ホールにいた。
「車が爆発したらしい」
「え?」
砂橋はすぐに玄関の開いた扉から外を見た。
「あー! 僕の車!」
蝦村と海女月も玄関へと駆け寄り、燃えてしまっている自分の車を見た。白田が慌てた様子でどこかへ行き、乾いたタオルを羽田に渡していた。
「なんの騒ぎだ?」
玄関から見て右の扉からまだ少し頭が濡れて、肩にタオルをかけた貴鮫が出てきた。丸縁の眼鏡をかけ直し始めながら玄関前に集まっている俺たちに近づいてきた。
「車が爆発したんだ、全部!」
自分の濡れた髪の毛をタオルで拭いている羽田が玄関を指さした。貴鮫も先の反応した面々と同じように慌てて玄関へと駆け寄って、車を見ると驚きのあまりか床に尻もちをついた。
「嘘だろ……?」
ガソリンに火がついて二次爆発したらまずいということで俺たちは玄関を閉じて、これからはなるべく玄関近くに行かないようにしようという話になった。
「とりあえず、宏隆さん、もう一回風呂に行った方がいいよ」
「そうです。このままでは風邪をひいてしまいます」
まだ風呂に入っていない砂橋と白田に言われ「悪い」と謝り、羽田はもう一度風呂へと向かった。
「ねぇ、なんで爆発したの?」
蝦村が怪訝そうに顔をしかめて、誰にでもなく尋ねる。その答えを出す人間はいなかった。俺にも分からない。
でも、一つだけ分かることがある。
あれは人為的に起こされた爆破だ。外にある車全てが爆破されるなど、そんなものが事故で起こるなんて奇跡はないだろう。
「……しかし、これですぐに帰れなくなったな」
「誰かに迎えに来てもらおう。さすがに仕事に差し支えがでる」
貴鮫が大きなため息をついた。確かに仕事がある人間にとって足がなくなるのは問題だろう。
「それよりも先に誰がやったかの方が問題だろう」
流れで食堂にそろうと、足を組んで座っていた海女月が周りをじろりと見た。
「お、俺じゃないからな! 俺は風呂に入ってたんだ!」
貴鮫が首を横に振る。海女月は疑いの眼差しを向けるが、本気で疑っているわけではないだろう。
「私にはできないわよ? ずっと砂橋くんと濃密な話をしてたし」
「そうですね。僕と蝦村さんはずっと二階の客室で話してました。途中で自分の部屋に荷物を取りに行きましたけど、その時は弾正と会いましたし」
何故か距離が近い蝦村が砂橋の頭をくしゃくしゃと撫でながら、自身の潔白を証明するとそれを砂橋が補足した。
俺は爆発音が聞こえるまでずっと羽田と共にいたから証明する人間はいる。白田も途中で飲み物を取ってきてくれていたがその後はずっと俺たちと一緒にいた。
「そういう海女月はどうなんだ?」
俺の言葉に彼女はキッチンの扉近くに立つ愛を手で示した。
「私はここにずっといたさ。彼女の料理がおいしくてね。おかわりをしていた」
ということは愛と海女月も爆発の時は潮騒館の中にいたことになる。爆破できる人間はいないということだ。
「でも、誰かが雨の中仕掛けたなんて馬鹿な話だと思わない?」
砂橋がくすくすと笑いながら、口を挟んだ。
「だって、もし、この大雨の中、外に出たら宏隆さんみたいにずぶ濡れだよ。そんなのすぐに分かるでしょ? 服を着替えたにしろ、髪をすぐに乾かすことなんてできない。お風呂に入る前の人でそんな人いたら、さすがに分かるでしょ」
それもそうだ。
爆破の時に犯人が外にいたとは限らない。むしろ、雨がまだあまり降っていない時に爆弾を仕掛けたのだろう。
「だから、ここで言い争っても無駄だと思うんだ」
砂橋の意見には賛同するものの、それぞれ思うところがあるのか、一人も他の人間と目を合わせようとしなかった。それもそうだろう。人の車を爆破する人間がこの中にいるのだ。その犯人も見つかっていないのに仲良くしろと言ってもできるわけがない。
後で砂橋に犯人の目星でも聞くか、と俺はため息を吐いた。
「……私は自室に帰らせてもらおう。もうこんな時間だしな。車が駄目になってしまったのなら、しかるべきところと連絡をとっておきたい」
海女月は立つとスマホを出して、それを揺らしながら食堂を出て行った。
「もうこんな時間だしね。私も明日のインタビューの準備でもして寝るわね」
蝦村も食堂から出ていくと貴鮫も黙って食堂から出て行ってしまった。羽田が風呂から戻ってくると人がいないのを察したらしく、ため息を吐いていた。
「そりゃそうなるよな」
「どうやら、今日はもう大人しくするらしい」
「まだ九時だぜ? 大人しくおねんねしろなんて馬鹿げてるだろ」
羽田の言葉に砂橋が楽しそうに「それもそうだ」と相槌を打った。
「それでは、ゲームの続きでもするか」
俺の言葉に羽田はにやりと笑った。
少なくとも今まで砂橋にいくつかの事件に付き合わされてきたので、この程度のことで恐ろしくなって引きこもるような肝ではない。砂橋も羽田も同じらしく、その様子を見ていた白田と言えば「ええ」と驚いていた。
「じゃあ、僕、お風呂行ってくるから先に二人で始めててよ」
「それなら、つまみと酒も用意していくか」
「僕、白ワインとチーズ。スモークタンも欲しい」
「ないと思うぞ……?」
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