第6話 潮騒館殺人事件6


 娯楽室へと行く前に食堂に行くと貴鮫だけがいた。どうやら、少し考え事をしていたらしく、食堂の扉を開けると驚いたらしい彼はがたりと椅子を揺らして腰を浮かせた。


「な、なんだ、弾正か……どうした?」

「砂橋は後でいいから、先に風呂に入れと伝えにきた」

「あ、そうか……それは聞いた……」


 空になったワイングラスを持って、貴鮫はキッチンへと向かった。待たせたら悪いと思い、俺は荷物を自分の部屋へと置くと娯楽室へと向かった。


 先に来ていた羽田がキャビネットを開いて中身を物色していた。白田は俺が来たのを見て「お茶を淹れてきましょうか?」と尋ねてきた。頼む、と答えると彼女はそそくさと娯楽室を出て行った。


「何かめぼしいものはあったか?」

「ああ、どうやら、娯楽室。思いのほかたくさんの娯楽道具があるらしい」


 羽田の横へと行き、キャビネットの中を覗き込むとそこにはテーブルゲームの類が詰め込まれていた。どうやら、木更津貴志はゲームが好きらしい。


「元社長はずいぶんとゲーム好きだな?」

「案外今まで仕事続きでやっと羽目を外すことができて楽しんでるんじゃないか?」


 かといって、入っているゲーム類の中には封が開けられていないものが多い。大人が引退後に腰を据える別荘というよりは子供と暮らすための遊び場のような気がしてしまう。


「兎と猟犬でもやるか」


 キャビネットの中から箱を取り出して、羽田はテーブルへと向かった。兎と猟犬というゲームは聞いたことはある。確か、砂橋が買っていたゲームの中にそんな名前のものがあった。今時のゲームは、トランプやテーブルゲームを多く入れたオンラインゲームもあるらしい。あいにく、俺は付き合ったことはないが。ただでさえ、チェスでも夜中まで突き合わされるのにオンラインゲームとなれば、底が見えないに決まっている。


 羽田の向かいの席について、兎と猟犬を三回ほどプレイした。一回戦目の時に白田が静かに娯楽室へと入ってきて、テーブルの上にレモンティーとウーロン茶を置いた。


 四戦目をやろうかと思っていると、ふと、羽田が立ち上がった。


「小腹がすいたと思わないか」


 腕時計を見てみる。もう九時前だ。夕飯を食べたのが六時頃として、小腹がすくのは当たり前かもしれない。そういえば、先ほどワインを飲んでいたが、つまみはなかった。飲み直すと同時に何かつまみでも食いたい。


「そうだな」


 俺は自分の空になったウーロン茶のグラスを持って、羽田と娯楽室を出た。ホールへと降りる階段を降りている時のことだった。


 突然、耳を殴るような爆発音がした。


「うわっ」


 思わず、階段でよろめいた羽田を慌てて後ろにいた白田が服を掴んで支えた。間一髪で階段から転落することは防いだようだ。


「外だな」

「建物が揺れたぞ……何が起こったんだ?」


 羽田と顔を見合わせると素早く立ち上がり、玄関へと急いだ。かかっている鍵を開けると、そこには、黒い煙があった。


「は……?」

「嘘だろ!俺の車……!」


 呆然とする俺とは対照的に羽田はすぐに炎と煙に包まれている車へと駆け寄った。

 俺たちが潮騒館へとついた際にあった三台の車と、砂橋の車、そして、夕飯後に来たであろう海女月の車がすべて、炎の中にあった。

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