幻術士第二部第四章

 俺の日々の予定の中に、三日おきぐらい

にエトナさんに会いに行くというものが加わった。俺は本じゃ学べないことを知れるし、エトナさんは喜ぶし、リラも楽しそう。ただ、セラ姉だけは、いいなぁと不満そうだ。セラ姉は宮殿の外に出掛けるときは金髪が目立たないようにスカーフを被って行くらしい。有名人だし目立つからね。

「そういえばセラ姉。普段何して過ごしてるの?」

そう聞くと、ルソルさんに頼まれて格闘の教官をやってるよ、とのこと。主に武官の子弟を鍛えてるらしい。

「雇われ教官ってことで給料も貰ってるけど、あんまり使う機会が無いのよね」

使う機会が少ないのは俺も同じだけど。あ、いや、海鳴館で贅沢なランチを食べるのに使ってるか。

そういえば靴屋に頼んでから一週間ぐらいでリラの靴が届いた。「すごくいい靴です!」とリラは大喜び。買ってあげて良かった。俺の靴もあそこで頼もう。



 エトナさんと昼御飯を食べた後、あの靴屋、ゲイル靴店にやってきた。靴職人のゲイルさんは俺の姿を見ると「何か問題がございましたでしょうか!?」と少し青ざめた。予想外の反応に、俺も慌ててしまう。

「いえ、すごく良かったみたいなんで、俺の靴も頼もうと思って来ました」

ゲイルさんは感激したみたいだ。「最高の靴を作らせていただきます!」と張り切っていた。ちなみに、これ以降、ゲイル靴店は英雄レイジ贔屓の店として繁盛することになる。それを知った時には自分の影響力というものに恐怖した。


 ゲイル靴店を出たところで、どこかで見たことがあるような気がする人とすれ違った。すれ違ってすぐに「レイジ!」と後ろから声をかけられる。え、やっぱり知り合いだった!? だ、誰だっけ。

「ああ、いや、レイジ様って呼ばないとダメか」

そんなことを言う男の顔をまじまじと見て、あっと声を出してしまう。

カルゲノ城で戦った破術士じゃないか!

「ちょっと話があるんだがいいか?」

男はそう言った。こいつはあの時カイタリアケイアスの呪術に操られてたはずだ。それが解けているなら危険な相手ではないと思う。リラは怯えてる様子だけど。

……少し話してみたい気もする。リラに「先に帰ってる?」と聞くと「一緒にいます!」とのこと。

俺たちはエトナさんに教えてもらった少し高めの酒場に入った。


「あの時は悪かったな、俺も呪術で操られてたんだ。〈隷属の呪い〉、悪魔の高等呪術っておっかねえな、二度とあんなもの食らうのは御免だ」

破術士なら自分で解けたんじゃないかな。素直にそう言ってみる。

「お前も食らったからわかるだろ、反抗する気なんて起きねえから自分で解除するなんて思いもよらなかったぜ」

なるほど、俺もルソルさんに操りを指摘されても何とも思わなかった。

「俺は傭兵のキャナス、あんなことがあったけど、俺も頭蓋骨割られたからお互い様ってことでよろしくな」

そういえばこの人セラ姉にメイスで殴られたんだ、よく生きてたな。

「レイジです。あの時やられたことが忘れられませんが、操られてたんじゃしょうがないですよね」

「ふう、話がわかる奴で良かったぜ、嬢ちゃんも悪かったな」

「はい……」

リラは不思議そうな顔で言う。

「どうして伯爵は〈隷属の呪い〉を私にかけなかったんでしょう?」

俺もキャナスさんもハッとする。確かにそうだ。

「そいつぁそうだ……。〈隷属の呪い〉に条件があるのか? それとも例の魔術の方の条件に引っかかるのか……?」

キャナスさんは召喚術と言わずに例の魔術と言った。きっと人に聞かれた時の事を考えて配慮してるんだろう。ちょっと好感を抱く。

「見て欲しいものがある」

そう言ってキャナスさんは荷物から本を取り出した。『失われた空術』……あっ! 思わず声が出てしまう。リラも複雑な表情をしている。

「俺はあの後こいつを持ち出してな。療養しながら読んだんだが、ところどころわけのわからん単語があるんだ。あと、神聖語も少なくない」

「私もそれで読むのが大変でした」

「で、だ。俺はこいつの価値がわかる奴を探して売り払おうと思ってたんだが、内容を読んで気が変わった。これをミリシギス伯爵みたいな奴に渡したら、また大事件が起こりかねねぇ」

俺たちもそれを心配してた。この点を問題視するってことは悪い人じゃなさそうだ。

「そんで、旅の途中であの事件が吟遊詩人の物語になってるのを聞いたんだ」

あれか……ちょっと恥ずかしい。

「あの魔術を使わされそうになった嬢ちゃんが、お前の侍女ってことに改変されてたのが気になってな。ああ、あいつらはあれを悪用しないし、修得した嬢ちゃんをどうこうする気も無いんだなって思ったわけよ」

何が言いたいんだろう?

「だからよ、この本、お前にやる。俺には荷が重い」

ええっ?

「その代わり、俺がバラダソールで雇ってもらえるよう口利いてもらえないか?」

なるほど……そういう話か。

「わかりました、ルソルさんに聞いてみます」

「おお、話がわかる奴で良かったぜ」

その後、今泊まってる宿の名前を聞いて別れた。

「ダメ元でネッサまで来たけど偶然会えるなんて、やっぱ俺のツキは衰えてないな!」

そんなことを言っていた。『失われた空術』は仕官が決まったら渡してくれるそうだ。


 宮殿に帰ってキャナスさんの事をセラ姉に話した。

「あいつが疾風のキャナスだったんだ……。生きてたなんてさすがね」

有名な傭兵らしい。

「悪行の噂も聞かないし、推薦してもいいんじゃない? 魔導書も必要なものだし」

セラ姉も賛成してくれたので、夜になってからルソルさんに伝えた。

「これはシャナラーラ女神のお導きですよ。偶然にしては出来すぎています。そのキャナスという人物、武官として仕官させましょう」

ひとつ頼みがありますとルソルさん。

「私も『失われた空術』が読みたいです」

なるほど、学者の血が騒ぐわけか。

「明日の夕方ぐらいになりますかね、宿に迎えをやりましょう。念のため私が直接会って人柄を見ようと思います」


 結論から言うと、キャナスさんは無事に三等魔術官の官位を与えられ、近衛武官の役職に就いた。近衛武官は王様の護衛部隊だ。パラジャンディさん直属の部下になる。大抜擢じゃないか。ルソルさんはキャナスさんを高く評価したらしい。

「エトナさんもそうですが、腕のいい破術士は貴重な存在です」

パラジャンディさんも王の警護が万全になりますと喜んでいたそうだ。そういえば、ルソルさんを狙った暗殺者は幻術を使っていた。ああいう相手に強いというのは王様を守る立場としてはありがたいんだろう。

そして、ルソルさんは『失われた空術』を取り出した。

「受け取ったんですね」

「仕官の条件でしたからね。……リラさんではわからない部分もあったとのことなので、まず私が読んでもいいでしょうか? 公務の合間の読書なので時間は掛かってしまいますが……」

むしろありがたい。

「ぜひお願いします」



 翌日、キャナスさんを昼御飯に誘ってみた。仕官したばかりで忙しいかなと思ったけど、むしろキャナスさんの方から俺に連絡を取ろうとしていた。口を利いてもらった相手に真っ先に会いに行くのは当然のことらしい。そういうものなのか。

「宮仕えに相応しい言葉遣いもしますよ」

丁寧な口調で話すキャナスさんのギャップに面食らう。

「しかし、摂政殿下も大胆ですね。どこの馬の骨とも知れない俺をいきなり近衛だなんて。これは、嬢ちゃんと例の魔術について、黙ってろってことですね」

なるほど、キャナスさんの方も、そういう心づもりがあってバラダソールに来たわけか。したたかだなぁ。

「ところで二等魔術官殿。あなたはとんでもない幻術士ですが、その後どうです? 腕を上げられましたか?」

やっぱり気になるのか。幻術士と強化術士は破術士に勝てないという常識を今では俺も知ってる。キャナスさんとしては俺とセラ姉に負けたことで色々思うところがあるんだろうな。

「中等幻術は一通り修得して、高等幻術がひとつそろそろ完成しそうです」

そう言うとキャナスさんは驚いた顔をした。

「その年で高等魔術を編み出すって、どんだけ化け物なんだよ!」

つい素が出たみたいだ。

「いや、編み出したわけじゃなくて、昔の有名な幻術士が使ってた〈幻の闘舞〉っていう魔術を自分が使えるように調整してるんです」

「いやいや、それでも凄いですよ。狂犬カダーシャと同格って噂は本当みたいですね」

ええっ、そんな噂が流れてるの!? 大喜びで決闘を申し込んでくるカダーシャさんが容易に想像できる。

「吟遊詩人はレイジ様には魔術神の恩寵があるって歌ってましたがね、事実だと俺は思いますよ」

「はい、心当たりがあります」

「あるのか……。凄い人と戦ったんだな、俺。自慢しますわ」

少なくとも十歳は年上だろうキャナスさんから尊敬されるというのが面映ゆい。というか、女神の恩寵ってことは俺の本当の実力じゃないんだよなぁ。そう考えると複雑な気分。



 困ったことになった。時々武官の人から縁談の話を持ち出されては断ってたんだけど、貴族からの申し出が来てしまった。

これまでは同格の二等勲士かそれ以下からの申し出だったから、身分差的にはその場で断っても問題なかった。

だけど今回の相手はウェンフィス伯爵だ。あの内乱の時に行ったグリュグラ城の持ち主で、司法大臣をしている大貴族だ。その伯爵の三女、シアさんがお相手らしい。断るにしても正式な会合をして、もっともらしい理由を挙げて断らないといけない。

セラ姉に相談すると「もう十六歳なんだし、いっそのこと結婚しちゃえば?」と予想外の反応を返された。そういえば結婚式で涙したいとか言ってたなこの人。

「俺は異世界に帰るから結婚するのは悪いよ。セラ姉と違って連れて帰るわけにもいかないし」

そう言うとセラ姉は気を良くしたみたいだ。

「じゃあ、いずれ故郷に帰らないといけない立場で、ずっとバラダソールにいられるわけじゃないからって言って断るしかないね」

セラ姉が縁談を断ってるのと同じ理由だ。

セラ姉はこの世界の常識で言う婚期を逃してそうだけどいいのかな? なんとなく怖くて聞けないけど。


 夜、ルソルさんに相談する。

「私も賛成です。むしろ私からもお願いしたいです」

うわ、全面肯定だ。

「元の世界に帰れるのがいつになるかわからない以上、この国に基盤を作っておくのは悪いことじゃありませんよ。レイジさんにはなるべく早く爵位を持って欲しいので、ウェンフィス伯爵が後ろ楯になるのは悪くありません」

すっごい乗り気じゃないか。っていうか、俺、貴族になっちゃうの?

「断るのであれば、言葉に気を付けてくださいね。貴族は侮辱に敏感です」

うわー、プレッシャー。



 数日後、ついにウェンフィス伯爵の屋敷に招かれてしまった。ウェンフィス伯爵家の紋章の入った馬車が迎えに来る。これまで貴族との会食は宮殿内で行っていたので、屋敷を見るのは初めてだ。

侍女としてリラを伴い、二等魔術官の礼服を着て門を潜る。うわ、広い……。庭だけでどれだけあるんだろう。しかも高そうな彫刻がいっぱいある。セラ姉も来たがったけど「弟の見合いに姉が付いていくのは……」とルソルさんに止められていた。俺としては心細いので一緒に来て欲しかった。あれ? 俺もしかしてシスコン?


 屋敷の中に入るとウェンフィス伯爵自ら出迎えてくれた。

「戦勝祝賀会の折りには挨拶もせず失礼した」と言われる。

「いえ、私は単なる臨時記録官でしたので。それに、この国に来て間もなく、右も左もわからぬ有り様でした」

伯爵は微笑をたたえて軽く頷いた。

「二等魔術官殿の噂は聞いている。摂政殿下と共に悪魔と戦ったとか。魔術神の寵愛を受けた幻術士という話もね。近頃、近衛に入った疾風のキャナスも、とんでもない幻術士だと語ってるそうじゃないか。素晴らしい」

褒められすぎてどう返していいかわからない。

「お褒めにあずかり汗顔の至りです」

ええと、こういう言い回しでいいんだよね。セラ姉に上流階級の話し方を勉強させてもらってて良かった。

「ははっ、そう緊張せずとも。義理とはいえ親子になるかもしれない関係だ」

今断るのはたぶん失礼だ。でも、あまり気を持たせるのも良くないかもしれない。これは難しいぞ……。例の設定を利用して匂わせておくか。

「私は妾腹、身に余る光栄です」

「なに、気にすることはない。今、二等勲に甘んじているのも一時的なものだろう。摂政殿下はいずれ魔術官殿に爵位を与えるおつもりだというのは公然の秘密として語られているぞ」

うん、本人も言ってたもんね。

「長話になってしまった。私などより娘と話したかろう。中庭に茶会の用意をしてある。先に行っていてくれたまえ」

俺が一礼すると伯爵は屋敷の奥へと行った。

使用人に案内されて中庭に回る。貴族の茶会というからなんかこう、白いテーブルに段になった皿があって、白い食器で紅茶を飲むイメージでいた。でも、中庭には豪華な絨毯が敷かれていて、やっぱり豪華なクッションがたくさん置かれている。こういうの見たことある。アラブの王族的なやつだ。バラダソールはエジプトとかアラビアっぽいと思ってたけど、この感想は間違ってなかったみたいだ。

絨毯に座って待っていてくださいと言われて、靴を脱いであぐらをかく。座り方、あぐらでいいんだよね? 宮殿だと椅子があったから作法がわからない。


 しばらくして、伯爵が色白で黒髪の女性を連れてやってくるのが見えた。俺は立ち上がって待つ。

「おお、魔術官殿、どうか楽にしていてくれ」

座れってことか。では失礼して、と言ってあぐらをかく。リラは後ろに立っているのが正解みたいだ。ずっと立たせておくの可哀想だな。

連れて来られた女性はなんだか恥ずかしそうにうつむいている。そして、俺の正面に座らされた。伯爵はちょうど俺と令嬢の間の脇に座る。うおお、お見合いって、父親の前でするの!? プレッシャーがとんでもないんだけど!

「魔術官殿、これが我が三女、シアだ」

シアさんは俺よりちょっと年上っぽい。俺の顔をチラチラ見ている。そして、小さな声で「シアです。お見知りおきを」と言った。

「ははは、憧れの英雄を前にして照れているのだ」

伯爵は愉快そうだ。憧れの英雄? ……吟遊詩人の物語の話か!

「実はこの縁談、娘が言い出してな。悪魔封じの英雄と話がしてみたいと言うから進めたわけだ」

おっと、ただの政略結婚といっても、シアさんは俺に興味があるのか。ますます断りにくい。どう話を組み立てよう。

「冒険譚がお聞きになりたいのであれば、お話ししますよ。私は自分の成果を誇るのが得意ではありませんし、世間で語られている内容は少々誇張されているようなので、もしかするとがっかりされてしまうかもしれませんが」

そう言うと、伯爵は嬉しそうな顔をした。くっ、この貴族の心の内が読めない……。シアさんも嬉しそうな表情で俺の顔を見ている。もしかしてミスったか?

「その、ウェンフィス伯爵閣下」

「何かな?」

「このお話を進めていただくに当たり、先にお話ししておかねばならぬことがあります」

「ふむ、生家の話かな?」

「はい。いずれ私は姉と共に故郷に帰ることになると思います。それがいつになるのか、わからないというのが正直なところです」

よし、言ってやった! 伯爵はうんうんと頷く。そんなことはわかってるって感じの反応……。

「セラエナ殿も同じ理由で縁談を断っていると聞いている。さもありなん。だがな、私はこうも思うのだ。遠く離れた異国との縁が結ばれるのは様々な可能性に満ちていると。帰国の際には我が娘を妻として連れて帰っていただけないか」

ど直球来た……。用意していた断りの文句が封じられた。やばい、どうしよう。

「とはいえ、いきなり決められるものではないのも道理。一度会っただけで婚姻を決めてしまうというのも格式を落としてしまう。今後も何度か娘と会ってもらえないだろうか」

シアさんが恥ずかしそうに顔をうつむく。

これは断ると侮辱に当たるやつだ。

「はい。ウェンフィス伯爵におかれましては、私に格別の目をかけてくださるご様子。まことにありがとうございます」

自分でも何言ってるのかよくわかんなくなってきた。伯爵は機嫌がいい。間違ったことは言わなかったみたいだ。セーフ。

「さて、そろそろ邪魔者は去るとするか。娘に冒険の話を聞かせてやってくれ」

そう言って伯爵は席を外す。良かったぁ、ずっといるのかと思った!

伯爵が去ると、シアさんは、二歩分ぐらい、ずずいと前に進んできた。えっ。

そして、こう聞いた。

「後ろのお付きの侍女はリラさんですか?」

はい、そうですと言うと「やっぱり! どうぞ、リラさんも絨毯に座ってください」と傍らをポンポンと叩く。思わず振り返りリラと顔を見合わせる。

リラは恐れ多いですと言うが、シアさんは父も席を立ちましたし、どうぞどうぞと言う。思ったより気さくな人みたいだ。ちょっと安心。リラに気を使ってくれたのも嬉しい。

「レイジ様、冒険のお話をお願いいたします」

「ええと、どこから話したものでしょうか……」

吟遊詩人の歌う物語は実物を酒場へ聞きに行ったことがある。だから、どういうことになってるのかはわかる。話せない部分は物語の通りにしよう。

「あれはルソルさん、摂政殿下と初めて会った時のことです。俺は恥ずかしながら、あっと失礼しました。私は――」

「構いません、普段の話し方でお願いできますか?」

「えっ、しかし、失礼では……」

「私が頼んだので大丈夫です」

そう言って柔らかく微笑む。なんか、包容力のある美人っていう感じだ……。

「わ、わかりました。俺はマデルに着いたところで路銀が尽きてしまったんです。以前からシャナラーラ女神に信仰を捧げていた俺は一晩泊めてもらおうと寺院に立ち寄りました」

シアさんは嬉しそうに話を聞いてくれる。俺もなんだか楽しくなって色々思い出しながら話した。コレフト砂漠の街道をマダが塞いでいたという辺りを話していると、シアさんの侍女が「申し訳ありませんがそろそろ……」と言った。確かに少し太陽の位置が低くなっている。

「レイジ様、お話の続きが聞けるのを楽しみにしています……!」

「はい、またお会いしましょう」

そう言って、屋敷の使用人たちに見送られて馬車に乗った。



 どうだったかとセラ姉が聞いてくる。

「リラにも気を使ってくれるいい人だったよ」

「へぇ、いいじゃん。結婚しちゃいなよ」

そんな軽いノリで言われても……。

ルソルさんにも「どうでしたか?」と聞かれる。同じく、リラにも気を使ってくれるいい人でしたと答えた。

「ほう、そうですか。ではレイジさんのために屋敷を用意した方が良さそうですね」

屋敷!? どうして??

「ご結婚されたらこの部屋に住み続けるわけにはいかないでしょう」

そんなことを当たり前のように言う。

なんでみんな俺を結婚させたがるんだ……。日本じゃ十八になるまで結婚できないんだぞ。俺は十六歳だ。なんてことをルソルさんに言っても仕方がない。あー、どうやって断ろうかな……。

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