幻術士第二部第三章

 内乱の後、宮廷内の様子は変わった。派閥の構造が変わったせいだ。キンギス派はなくなり、ルソルさんにどれだけ近いかで派閥が形成されているみたいだ。そのせいか、ルソルさんの側近である俺に興味を持って声をかけてくる貴族が出始めた。悪魔の召喚を阻止した話をアギリフ伯爵が広めたことも大きい。宮廷内に噂は広まっている。噂には尾ひれがついて、俺はまるで英雄扱いだ。いつの間にか狂犬カダーシャと引き分けた最強の幻術士なんて話も加わってる。カダーシャさんとは戦ってないし、破術士にやられたと言って訂正して回ったけど、むしろ幻術士と最悪の相性の破術士に最終的に勝利したということで株が上がる始末。幻術士や強化術士が破術士に負けるというのは当たり前のようで、姉弟が力を合わせてその不利をひっくり返したという部分が拡大解釈されていった。なんか、三千年前にカイタリアケイアスが召喚された話を引き合いに、その時に悪魔と戦った英雄マグスと同等の功績なんて言われて褒め称えられる。言い過ぎでしょう。


 その三千年前の事について。マグスの献身により悪魔を地獄に追いやったという話がひっかかった。悪魔は召喚術で地上に呼び出されたはず。それを地獄に帰す方法はきっと召喚術だ。それって俺を日本に帰す方法に応用できるんじゃないだろうか。

そう思って書庫へ行く。『ケイルンガス最後の日』たぶんこの本だ。

三千年も前の事なので以前読んだ『英雄ヴァリス物語』同様、脚色された物語という印象を受けた。特に、舞台が魔族の都で、登場人物のほとんどが魔族ということもあってか、魔族は愚かな行いの報いを受けたというテーマで書かれているように思える。肝心の悪魔を地獄に追い返したくだりは、カイタリアケイアスを呼び出した邪悪な召喚術士の孫娘シャジャラが祖父の研究資料を読んで禁術を身に付け、〈反召喚〉を行ったと書かれている。これが召喚を取り消す魔術の名前か。孫娘はその後、祖父のしでかした事の責任をとらされて処刑されている。このシャジャラにリラを重ねてしまい、俺は陰鬱な気持ちになった。

リラにも読んでもらおうと思ってたけど、この本はやめておこう。



 剣術訓練と読書の日々に時々貴族との会食という予定が入るようになった。セラ姉が高名な人狩人だという話も広まっていた。武官のうちの何人かが、姉上と我が息子の縁談の話を検討してもらえないだろうかと言い出した時は慌ててしまい、本人に聞いてくださいと言ってしまった。俺が断っておけばセラ姉に直接この話をしに行く人もいなかったかもしれないと考えると、本当に失敗したなと思う。なんか、俺にも縁談の話が来たけど、日本に帰るつもりなので全部断った。


 セラ姉は話を断るために自分はあるパルム人の国の貴族だからバラダソールで結婚するわけにはいかないと説明せざるを得なくなったみたいだ。必然的にその弟である俺も貴族だという認識が広まってしまう。これも噂に尾ひれがついて、似ていない理由として、俺が隠し子でパルム人以外の血を引いているということになっていた。パルム人の社会に馴染めなかった俺は出奔しゅっぽんし、弟想いのセラ姉がそれを追って家を飛び出し感動の再会を果たした話まで出来上がっている。下働きの侍女の話だと、宮殿の外にもこの話は広まっていて、パルム人の混血貴族が摂政殿下に導かれ、冒険の末に悪魔を倒した話として吟遊詩人の語る歌になってしまっているそうだ。俺は仰天した。

ルソルさんにこの話をすると苦笑した。

「リラさんの召喚術のことが広まらなくて良かったです。むしろ良い隠れ蓑になっていますね」

なるほど、ちょっと恥ずかしいのは我慢しておこう。



 宮殿の侍女から俺に会いたがっている人がいるという話を聞いた。正規のルートでの打診じゃないから何事だろうと思っていると、エトナというワンディリマの司祭様なんですがと言われる。エトナさんだ!

さっそくルソルさんに伝えると、忙しい公務の合間に会う時間を作ってくれた。

ルソルさんとセラ姉とリラとエトナさん、そして俺、五人での会食が開かれた。人払いがされているので秘密の話もできる。

会っていきなり「レイジ背が伸びた?」と聞いてくるエトナさん。そういえばそうかもしれない。

「筋肉も増えて頼もしい感じになったじゃない」

そんな風に褒められると照れる。

「司祭への昇格おめでとうございます」

ルソルさんがお祝いを言う。そうか、そういえばエトナさんは助祭だったんだ。カイタリアケイアスの件で評価されて昇格したんだとか。その時に、ダメ元でネッサの寺院に転属希望を出してみたら通ってしまったんだって。つまり、これからはエトナさんはこの街に住むことになる。事情を知っていて協力してくれるエトナさんが近くにいるのは嬉しい。

ルソルさんはいつでも宮殿に入れるよう、三等魔術官に推薦できると言ったけど、エトナさんは断った。宮廷とあんまり近しいと寺院内での今後の昇進に響くかもしれないとのこと。面倒なしがらみがあるんだな。

「それに、レイジその様子じゃ宮殿の外に出てないでしょ」

そういえば街を散策したことがない。

「私に会いに街に出てくるのもいいんじゃない?」

「レイ君に変な遊びを教えないでくださいね」

変な遊びはともかくとして、街をじっくり見るのは楽しそうだ。

「それにしてもさー、酒場で吟遊詩人が英雄レイジの物語を歌ってるの聞いた時には思わずお酒を吹いちゃったわよ。私まで出てくるんだもん」

なんでも、戦闘司祭カダーシャと凄腕の破術士エトナが魔術神の寵愛を受けた幻術士レイジを助けたことになってるらしい。

「私が隠してきた破術適性が暴露されまくってるんだけどさー、どうしてくれんの」

そんな文句を俺に言われても……。ちなみにこの世間に出回ってる物語、セラ姉の大のお気に入りだ。セラ姉が弟を追って家出をした事。感動の再会を果たした事。呪術に操られた弟を救った事。姉弟で力を合わせて破術士を倒した事。そんな内容が盛り込まれていて、姉弟の絆がテーマのひとつになっているのがすごく嬉しいらしい。もしかしてセラ姉、噂がこうなるように誘導した?

俺は自分が英雄として称えられている脚色たっぷりの物語に何とも言えない恥ずかしさを感じている。ちなみにリラについては架空の俺が出奔する前からのお付きの侍女で、健気にも冒険の供をし続けた忠臣ということになっている。そこまで注目される役割じゃないし、召喚術のことと無縁なのでホッとしていた。というわけで、会食は吟遊詩人の物語について大いに盛り上がった。


 そろそろお開きという頃合いで、エトナさんはリラの帰還の儀式の習得について尋ねてきた。

「レイジ、元の世界に帰れそうなの?」

召喚術の情報は皆無だと言うと、ミリシギス伯爵が持っていた魔導書が行方不明だと教えてくれた。

「なんかね、クレイアが人を引き連れて回収に行ったらしいんだけど、見付けられなかったみたいよ」

そうなのか……。せめてあの本があれば少しは研究ができるのに。

「そういえば何ていう魔導書だったの?」

リラに聞いてみる。

「『失われた空術』です」


 『失われた空術』が紛失した経緯を考えてみる。エトナさんの話ではクレイアさんは別れた日の六日後にテルデライ伯爵の軍、つまりセージさんと一緒にカルゲノに入城したらしい。城内は荒らされていて、貴金属や宝石は無くなっていたものの、本などはそのまま残されていたそうだ。生き残った賞金首たちが火事場泥棒をしていったんだろう。クレイアさんたちは徹底的に城内をくまなく探したけど、例の魔導書は見つからなかったみたいだ。

つまり『失われた空術』は、その価値を知る誰かが持ち出したということになる。これは非常にまずい。どこかでまた悪魔を召喚しようとする者が現れる可能性がある。

ただ、手がかりが無さすぎて俺にできることは無い。シャナラーラ女神に祈っておこう。



 エトナさんがやってきて三日後、せっかくなのでネッサを散策しつつワンディリマ寺院を訪ねてみることにした。セラ姉を誘うと喜んだけど、ちょっと考える素振りを見せてから「リラと行ってきなよ」と珍しいことを言う。

「私たち有名人になっちゃったでしょ? パルム人の私が一緒だとばれそう」

残念そうにそんなことを言う。なるほど、俺も迂闊うかつなこと言わないように気を付けよう。

それで結局、リラと二人で昼前にネッサ宮殿を出る。まずはどこかでお昼ご飯を食べよう。

「楽しみですね、レイジさん」

ここでハッと気づく。俺、この世界に来てから、自分で選んだ料理を食べるの初めてだ。それどころか買い物するの初めてじゃないか!

摂政付武官のお給料は多い。具体的にはごく平均的な庶民の月給の五倍ももらってる。お金の単位はリギ。普通の食堂がだいたいひとり三百リギらしい。色々買い物するかもしれないし、リラもいるから二万リギ財布に入れてきた。一般庶民ひとりの一ヶ月分の食費らしいからスリに気を付けないと。

ちなみにセラ姉に用意してもらった服は官位を持つ身分に相応しいものらしい。「一般庶民らしい格好した方がいいんじゃないの?」と言うと、「宮廷勤めを相手に揉め事を起こす無法者はさすがに多くないよ」と言われて、なるほどとなる。犯罪に巻き込まれるのは避けたい。

「それに、レイ君の綺麗な手を見たら誰でも身分が高いと思うよ」

剣術訓練のお陰でマメのできた手のひらを見ながら、そんなに綺麗かなぁと不思議に思う。


 標高の高い田舎町出身のリラは南国バラダソールの首都ネッサが物珍しいようだった。よし、何か買ってあげよう。女の子が喜ぶものなんて、服とかアクセサリーしか思い浮かばない。そして、俺はそういうものに詳しくない。それとなく、服とかアクセサリーとか欲しくないか聞いてみよう。

「リラはさ、お洒落とか興味ある? 服とかアクセサリーとか見てみようよ」

全然さりげなく聞けなかった。

リラの答えは単純明快。宮殿では五等勲士相応の侍女のお仕着せ姿でいる。住み込みなので他の服は必要ない。今もお仕着せ姿だ。つまり、服は必要ないと言われてしまった。

「アクセサリーはどうかな?」

「お気持ちは嬉しいですけど……。侍女があんまり着飾ってると目立ってしまうので……」

うん、俺のアイデア全滅。とりあえず昼御飯食べよう。

一国の首都だけあって、食事がとれる店は多い。でもどこに行ったらいいかさっぱりだ。最後の手段を使うしかない。道行く人、地元民っぽい人、親切そうな人を探す。いた! 小さなよちよち歩きの子を連れた人の良さそうなおじいちゃん。

すみませんと声を掛ける。相手は緊張した様子。ほら、やっぱり偉そうな格好してるから気を使わせちゃうんだ。

「昼御飯を食べるのにお勧めのお店はありませんか?」

「高貴なお方の口には合わないかもしれませんが、港の方にある巻貝亭が繁盛しています」

ありがとうございますと言うと、ものすごく恐縮していた。リラが、偉い人はそんなに簡単に庶民にお礼は言いませんよと言う。偉くなったつもりは無いんだよなぁ。とりあえず巻貝亭というところに行ってみよう。


 ものすごく混んでた。入り口から覗き込むと、忙しくしていた店員さんが、作業を止めて慌てて入り口にやってきた。

「何かご用でしょうか……?」

ああ、わかった、すごく忙しいけど偉い人が来ちゃったから優先して対応しないといけないと思ってるんだ。めちゃくちゃ邪魔してる俺。

「ごめんなさい、忙しいようなのでやめておきます。作業の手を止めてしまってすみません」

店員さんは驚いた顔をした。俺は急いで店から離れる。リラに、偉い人はあんな風に謝らないですよと言われれしまう。そんなこと言われたって……。

さて、お腹は空いてるけど庶民的なお店に行くと迷惑がかかることがわかった。セラ姉がこの服を着せたのは過保護だったわけだ。こうなったら高級そうなお店を探すしかない。そうだ、情報を集めるのが得意なエトナさんに聞こう。


 予定を早めてワンディリマ寺院にやってきた。助祭の人が対応してくれる。エトナさんはいますかと尋ねると少々お待ちくださいと言われた後に、すぐやって来た。

「さっそく来てくれたんだー、しかもいい時間に来てくれちゃって、わかってるぅ」

いい時間?

「これから昼御飯でさ」

うわ、邪魔な時間に来ちゃってごめんなさい。

「辛気くさい上に美味しくない寺院のご飯よりお店の料理食べたいのよ。ということで、どっか連れてって」

あ、そういうことか。

「エトナさん、いいお店知りませんか? 街で聞いたお店は混んでて入れなさそうだったので」

エトナさんが俺の格好をじろじろと見る。「どこのお店に入ろうとしたの?」

巻貝亭ですと答える。

「あー、あそこ評判いいね。二等魔術官様が入るようなお店じゃないけどね!」

そう言って笑われてしまった。何があったかお見通しらしい。

「レイジもさ、偉くなったんだから相応の振る舞いを覚えなさいよ。だから宮殿に籠りっきりじゃダメだって言ったの」

本だけじゃ常識は身に付かないってことか。

「ということで海鳴館に行きましょう。美味しいって評判よ」

おお、やっぱり良いお店を知ってた。ネッサに来て間もないのに、さすがだ。

「高いお店?」

「まぁね、でも昼ならお酒飲まなきゃ三人で五千リギ以内でしょ」

五千……? 一般的な外食が一人三百リギって聞いたぞ。三人分で九百リギ。五倍もするじゃないか……。

「どうしたの? さっさと行こうよ」

すごく贅沢な気がするけど、平均月収の五倍もらってるんだから五倍の食事をしてもいいのか。いいのか? でもよく考えたら王宮で普段食べてる食事だって庶民からすればきっと贅沢……。リラにも確認しよう。俺の頼みでリラには俺と同じものを食べてもらってる。

「リラ、宮殿で出てくるご飯って、お金かかってそう?」

「贅沢をさせてもらってありがたく思っています」

やっぱり贅沢料理だったー!

「でも、毒見役として同じ料理を侍女に食べさせる方は多いみたいですよ」

毒見役……!? 俺、リラにとんでもないことさせてた?

「あっ、レイジさんがそういうつもりじゃないことはわかってます!」

エトナさんが真面目な顔をして言う。

「レイジがどんな世界から来たか知らないけど、ずいぶん変わったところから来たみたいよね。はやくこっちの常識を身に付けた方がいいよ。ということで、ちょいちょい昼御飯に誘ってね」

そう言ってウィンクする。自分が美味しいものを食べたいだけなんだろうけど、エトナさんが頼りになるのは間違いない。ちょいちょい一般常識を教えてもらうことにしよう。



 海鳴館の料理は豪勢だった。日本にいた時だって、こんなご馳走、高級レストランに何回か行った時しか食べたことがない。父さんがボーナス入ったからたまにはいいもの食べようって言ったんだっけ。家族は元気かな……俺がいなくなって大変なことになってるんだろうな……。なるべく早く帰らないと。

……他のお客さんを見ると、確かにみんなお金持ちそうな格好をしている。

「商談中の商人が多いね。それも、ここにいるのは商会長とかそういう偉い人たちだから、情報収集にはもってこい。お願いレイジ、時々連れてきてね」

そういえばマーヘスの司教はあの辺りの商活動を全部把握してるってルソルさんが言ってたな。エトナさんも、このネッサのお金の流れを把握したいわけか。俺もそれをエトナさんから教えてもらえば、いずれ何かの役に立つかもしれない。

「わかりましたエトナさん。俺にも情報くださいね」

「お、わかってきたじゃん。レイジはまだ若いし、バラダソールで出世して行くんだろうなぁ」

「や、そんなことないですよ。元の世界に帰ることが第一目標ですし」

「すみません、私が自力で〈反召喚〉を編み出せるといいんですけど……」

あれ? 〈反召喚〉って魔術の名前、前は知らなかったはず。もしかしてリラも『ケイルンガス最後の日』読んじゃったかな。

「帰還の儀式について、何か新しい事わかったの?」

「この前、『神々の与えたもうた魔術』っていう本を読んだんです。あ、いえ、神聖語だったので読めなかったんですけど、注釈は普通語だったから、そこだけ読んでいったんです」

そっか、俺もそれ注釈だけでも読んでおこう。

「エトナさんって神聖語読めます?」

「すごい苦手。ちょっとなら読めるかな。翻訳の手引きと睨めっこしながらならだし、時間はかかるけど。でも高等魔術のことが書いてるってなると、訳せない部分も出てくるかも」

「そうですか……」

忙しいルソルさんには頼めない。

「とりあえず注釈を読んでみて、もしかしたら一部分だけ翻訳頼むかもしれません。……いいですか?」

「いいよ、その代わり、私の昼御飯を時々でいいから豊かにしてね」

そんな感じでエトナさんとは定期的に会う約束をした。今日このあとは、ぶらぶらお店を見ながら宮殿に帰ろう。リラに何か買ってあげたいな。あと、セラ姉にお土産。



 街を歩いて気付いたことがある。服屋も靴屋も商品を陳列してない。リラに聞くと、採寸して作ってもらうのだとか。ああ、オーダーメイドが普通なのね。

「リラが今はいてる靴ってどこで作ってもらったの?」

「これはエトナさんがノルカルゲノで見つけてきてくれた靴です。ちょっと大きいですけど」

おおっ、リラに買ってあげるもの決定! すぐに近くの靴屋に入る。何軒かあったけど、違いがわからないから一番近くにあった店に入った。頑固そうな職人さんが一人いる。

「この子の靴が欲しいので採寸してもらえますか?」

「そんなつもりで言ったわけじゃないんです!」

靴職人は慌てるリラにお構いなしで、靴を脱いでこの台に足を乗せてくださいと言った。リラは観念したみたいで言われた通りにする。巻き尺でサイズを測っていく靴職人。そういえば俺の靴、ルソルさんが用意してくれたけど、ちょっと窮屈になってきてるな。俺も今度新調しよう。

「侍女用に作ればいいんですな?」

「ええ、お願いします」

そう言うと、なぜか少し気を良くした様子で、一万リギでお受けしましょうと言ってきた。靴の相場がわからないぞ……。でも、払えるからいいか。わかりましたと言って財布を出そうとすると「まさか前金でくれるんですかい!?」と驚かれた。あ、そうか、現物を見てから払うものなのか、でも期待させちゃったし払おう。

「官位とお名前をうかがってもよろしいですか? お届けさせていただきます」

なるほど、そういうものなのか。

「二等魔術官のレイジといいます」

「二等勲! あの英雄のレイジ様! このような卑しいお店にご足労いただきありがとうございます。全身全霊をもって取り組ませていただきます」

土下座でもしそうな勢いに俺はものすごく恐縮した。

肩書きとか身分とか、俺が思ってた以上に大切なことらしい。靴屋に注文を終えると、俺は一般人を怯えさせないようにまっすぐ宮殿に帰った。あ、セラ姉へのお土産を買い産忘れた。

ちなみに、今日の行動のせいで、例の吟遊詩人の物語には俺が気前が良い上に庶民に優しい人物だという情報が加えられることになる。

セラ姉にお土産を忘れたことを言うと「ええっ、いいよ、レイ君は優しいなぁ」と

ハグされてなでなでされてしまった。

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