第32話 この状況はなんだ?

「好きです」


 結城ゆうき君が、私に告白してきた。


「あー!友達として!」

「違う」


 逃げられない。


「俺は本気だよ」


 彼は真剣な顔をしている。


「返事は後で良いから。んじゃ、俺はここで!」

「あっ、はい。またね」

「うん、また」


 私は放心状態でとぼとぼとまた歩き始めた。



「一体、どうなってんの?」

 真剣に考える。でも纏まらない。

「姉ちゃん、むずい顔してんな」

「ちょっと黙ってて」

 自分の部屋に妹は寛いでいる。

 かまってらんない。


 ピロリン♪


 スマホが鳴った。着信確認。

 “斗緒哉とおや”の文字。

 深呼吸をしてからメッセージを開いた。


『今日はいきなりごめん』


 そうだよ!突然すぎだよ!

 いや、知らなきゃ突然か。


『落ち着いたら、返事よろしく』


 溜め息を吐く。

 今すぐに断りたい。でも、私の気持ちを知った上で伝えた気もする。

 このこと、時生ときお君の耳に入ってなきゃいいけど。



 安藤時生 side


「は?」


『あんずちゃんに告白してきた。返事はまだ』


 やられた。


『あっそ』


 素っ気ない返事をして、スマホの電源を切った。

 充電する必要ないが、今はスマホを見たくない。


「ダメだ・・・自信ない・・・」


 苦しい、どうしようか。


 コンコンッとノックが聞こえた。

「はい」

 ガチャッ。入ってきたのは。

「よっ!」

「兄さん」

 なんだよ、帰ってたのか。

 安藤あんどう健太けんたは俺の兄。

 病気がちから元気になってからは、好きなラグビーを中学からやり始めたお陰で、実業団で活躍するまでになっていた。

「苦虫噛んだ顔してんな」

 なんかウザい。

「そうだ、先生元気か?」

「ん?あぁ、元気。たまに兄さんのこと聞いてくるし」

「そかそか!」

 兄さんが子供の頃、病院で先生と出会って知っていた。

 入学式の写真を見せたら「はち兄ちゃん!」と呼んで興奮。

 聞いてみたら先生も兄さんのことを覚えていた。

 尾沢おざわさんが言っていたな、世界は広くて狭いって。

「んで、お前は、何に悩んでるんだ?」

 兄さん、鋭い。

「困ってるというか迷ってるというか」

 なんだか、言いづらい。

「話せ話せ」

「友達が告白したってメッセージきて、相手が俺の好きな人で」

「おぉ・・・恋か・・・」

 やっぱり兄さんに相談は的外れか。

「とりあえず、友達を気にするな」

 えっ?

「お前がどうしたいかだ、伝えた方が良い」

「兄さん」

「お前も大人になってきたな」

 俺の肩をポンッと叩いて、兄さんは部屋から出て行った。


 兄さん、ありがとう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る